代替タンパク質における「発酵」の可能性|ウェルネスフード・ワールド第101回

こんにちは。GNGの寺門です。
5月のウェルネスフードワールドをお届けいたします。

近年、代替タンパク質の研究や開発が世界中で急速に進んでることは、皆さんご存知かと思います。代替タンパク質というと、大豆やエンドウ豆などを原料とする「プラントベースミート」、細胞培養により人工的に製造する「培養肉」、発酵技術を利用する「発酵由来のタンパク質」、その他にもコオロギなどの「昆虫食」やスピルリナなどの「藻類由来のタンパク質」があり、それぞれとても興味深い領域です。今回はその中でも、日本の食文化で古くからなじみのある「発酵」を利用した「発酵由来のタンパク質」について、その技術や利点、今後の課題を世界の動向を交えてお伝えしたいと思います。

味噌、醤油から、地域特有のユニークな発酵食品まで、「発酵」は日本で古くから親しまれてきた技術です。米国ではコロナ禍で腸の健康の重要性が認知されたことから、Kombuchaやキムチ、味噌などが注目を浴びています。そしてこの「発酵」が今、代替タンパク質の生成に利用され、その開発をするスタートアップ企業が世界中で次々と誕生しています。

まず、改めて「発酵」とは何かを確認すると、「酵母類、細菌類、カビ類などの微生物の働きにより、食品が新たな有機物に変化すること、またはその過程。発酵後の食品が人間に有用なものだった場合は「発酵」、有害だった場合は「腐敗」と呼ぶ」とあります。(※1)

発酵技術の種類

一口に発酵と言っても、代替タンパク質の領域で使われる発酵技術は、その過程でどのような微生物を使用するか、どのように作用させるかなどに違いがあり、現在以下の3つに分類されています。

・ 伝統的な発酵  (例)微生物の嫌気性消化を利用:味噌、納豆、ヨーグルトなど
・ バイオマス発酵 (例)菌糸を増殖させた集合体:「マイコプロテイン」
・ 精密発酵    (例)遺伝子組み換えされた微生物使用:特定の成分を生成可能

伝統的な発酵

私たちが普段の食生活で慣れ親しんでいる発酵食品は、「伝統的な発酵技術」を利用しています。微生物から分泌される酵素の働きで嫌気性消化されることによる、タンパク質や炭水化物の分解、代謝というプロセスを踏みます。それにより、グルタミン酸などのうま味成分の生成や、消化がしやすくなる、風味が増すなどの機能性向上といった利点があります。欧米では健康食品として認知度が上がっている、インドネシアの伝統食品「テンペ」もこのタイプで、真菌のリゾプス(テンペ菌)を使用し大豆を発酵させています。

このタイプの発酵を利用して商品の開発をしているスタートアップ企業としては、「FermentIQ™」という、エンドウ豆や米のタンパク質をシイタケの菌糸体で発酵させた商品を開発している、米国のMycoTechnology社や、日本の国菌ともなっている「麹菌」由来の代替タンパク質を開発しているPrime Roots社などがあります。

     

Prime Roots社は、麹が日本の国菌であることと、「コージ」という日本人男性の名前と同じ響きであることからか、同社のHPには「MEET KOJI: HE’S A REAL FUNGI」(コージを紹介します。彼は本物の菌類です。) と、「麹」を擬人化して賞賛するようなフレーズを載せています。また、MEETとMEAT(肉)、FUNGIとFUN(楽しさ)もかけているのかもしれません。様々な情報へのアクセスが容易になった今、消費者は「本物」であるか、そうでないかを見分ける力をつけています。情報に敏感な層に響きやすくユーモアを交えたこのフレーズは、アメリカらしさとともに、この企業の若さと巧みさを表している気がします。

Beyond Meat社などのプラントベースミート開発企業が、主に大豆やエンドウ豆由来の代替タンパク質商品を開発しているのに対し、彼らは発酵が持つ機能性向上効果を利用した商品を開発し、消化のしやすさや、大豆不使用(※2)、フィチン酸などの「反栄養素」(※3)が少ない点など、プラントベースミートが持ち得るネガティブ要素が払拭されている点を強みとして打ち出しています。

バイオマス発酵

次に「バイオマス発酵」ですが、この方法は菌糸自体を代替タンパク質の成分とします。増殖させて生成されたものを「マイコプロテイン」と呼び、タンパク質とともに繊維質も豊富で低脂質なことが特徴です。代表的な企業は1985年に英国で生まれたQuorn社や、2016年設立の米国スタートアップ企業、Meati Foods社などです。

Quorn社は、真菌の一種である「糸状菌Fusarium venenatumのPTA-2684株」を発酵させ「マイコプロテイン」を生成し、これを主成分とした製品「Quorn」を販売しています。2001年に米国市場へ参入した当初は、真菌由来であることを明記していなかったため、キノコ由来だと勘違いして購入した消費者や、業界団体らに訴えられるという出来事がありました。その後はマイコプロテインが「菌糸由来」であることが明記され、現在はヨーロッパや米国、アジアの18か国で販売されています。

Meati Foods社は独自の菌糸体を成長させて、自然な繊維質の食感を持つ代替肉のブロックを生成しており、完全に成長するまでにかかる時間はわずか約18時間です。今年後半には同社が「Urban Ranch(都市型大農場)」と呼ぶ、サッカーコートほどの広さの施設の稼働を予定しています。稼働が開始されれば、1日に4500頭の牛に相当する量の代替肉を生産できるようになり、必要な水と土地は従来の1%未満になるとのことです。

同社は今年の2月14日に、自社ECサイトを通じて商品の予約注文受付を開始し、24時間以内に完売しています。

精密発酵

そして注目したいのが「精密発酵」です。精密発酵では、微生物に作りたい成分の遺伝子を挿入し、生産工場になるようにプログラム、特定のタンパク質や酵素、フレーバー分子、ビタミン、色素、脂肪を効率的に生産することが可能です。非動物性の乳タンパク質を世界で初めて開発した米国のPerfect Day社や、二酸化炭素からタンパク質を生成する、フィンランドのSolar Foods社などがあります。
Perfect Day社は今年の2月24日、betterlandfoods社とともに代替乳製品「betterland COW-FREE MILK」の小売販売を今年の夏から開始すると発表しました。

Solar Foods社は、フィンランド技術研究センターと、ラッペーンランタ工科大学の共同研究プロジェクトのスピンオフベンチャーで、2017年に設立されました。

同社の利用する技術は「ガス発酵」とも呼ばれ、大気中の二酸化炭素、水、電気、微生物を使って単細胞タンパク質(single-cell protein)の生成が可能です。微生物が水の電気分解によって生成された水素を取り込み、酸素、二酸化炭素も栄養分として消費、増殖すると、微生物の体の中では、取り込んだ二酸化炭素が炭素化合物として貯蔵されます。この貯蔵される炭素化合物(タンパク質)を乾燥させて粉末にしたものが、同社の代替タンパク質「Solein®」となります。

Soleinは必須アミノ酸をすべて含む無味なタンパク質で、同社はこれまでにSoleinを使ったバーガーパテ、ミートボールなど、20種類以上の商品を開発しています。

  

この技術のパイオニアは米国のAir Protein社で、1960年代にNASAが開発した技術を応用しています。宇宙船という限られたスペースで、炭素という有限資源を再利用するために開発された技術ですが、地球上でおこる炭素にまつわる問題の解決に有効だとして、開発が進められました。

二酸化炭素は原料として無くなることはなく、農業のように膨大な土地や灌漑設備、殺虫剤、肥料などを使用とせず、天候にも左右されないため、環境に優しく、サステナブルな点が利点となります。また、季節的な価格変動や供給変動、異常気象の影響が無いことも大きな強みです。

プラントベースミートを開発しているImpossible Foods社は、「ヘム」という化合物を混ぜることで、本物の肉の見た目や風味を再現していることが特徴ですが、同社はこの「ヘム」を精密発酵技術によって生成しています。代替タンパク質に特化した情報を発信しているThe Good Food Institute社(以下、GFI)は、今後代替タンパク質業界が「プラントベースミート」と「バイオマス発酵」、「精密発酵」の垣根を越えて、それぞれの技術を活用することで、大きな一つのカテゴリーになるだろうと予測しています。

資金調達動向

2021年にUnilever社がマイコプロテイン生成のスタートアップ企業である英国のEnough社と、今年の3月には味の素がイスラエルの培養肉開発企業、Super Meat社と業務提携へ向けての出資を発表したように、現在、様々な大手企業が代替タンパク質のスタートアップ企業への出資や業務提携を進めています。
GFIの調査によると、2021年の代替タンパク質開発企業の資金調達額は約50億ドルで、2010年からの資金調達額の総額の約半分を占めるとのことです。(※下図1)

また、バイオマス発酵と精密発酵を利用する企業の資金調達額は2021年に急激な伸びを見せていますが、これは投資家がその技術を認知し、ポートフォリオの多様化を図ったことによるようです。

今後の課題

2021年の資金調達状況を見てみると、その90%は米国の企業が占めています。(※下図2)
世界の人口増加で将来的なタンパク質の供給不足が予測されていますが、これは世界規模の問題であり、世界的な解決策が必要です。今後は日本を含め、多くの国で開発が進むことが期待されます。

海外シンクタンクのRethink Xは、精密発酵によって2030年までに米国の家畜牛数が半減するとし、精密発酵によるタンパク質の生産コストは2030年までに急激に下がるとともに、乳牛から生乳を生産するコストは2倍になると予測しています。これは、乳製品を生産するのに、精密発酵で生産する方が、乳牛から生産するよりも安くなるタイミングが10年以内にくることを意味しています。(※下図3)。

精密発酵は急激なコストダウンが見込まれており、米国を中心に製品の置き換えが進んでいるにもかかわらず、世界規模での生産にはいたっていません。その要因の1つが、インフラのギャップです。現在、世界で稼働しているバイオリアクター容量は6100万リットルとされ、そのうち食品用に使用される容量はわずか200万リットルです。微生物由来のタンパク質生産は、2030年までに100億リットルの生産能力が必要になると試算されており、これは現在の生産能力の100倍以上です。

この問題を解決するために、Solar Biotech社は大規模な施設への移行を支援する、技術プラットフォームをスタートアップ企業に提供しています。このようなサポートが可能な企業が増えるなど、どのような形であれ、今後はインフラが整備されることが必要不可欠となります。

代替タンパク質は、生産体系から動物を除外することで汚染という脅威が取り除かれ、生産過程で抗生物質を使う必要もなくなります。人類のこれまでの歴史の中で、動物由来の感染症パンデミックがあったことを考えると、公衆衛生や食料安全保障の面でも多大な恩恵をもたらすと考えられます。代替タンパク質は、今後さらなる開発と研究が必要であり、その領域への貢献に大いなる可能性を秘めた「発酵」の技術は、これからますます注目の領域となりそうです。

参照※1:株式会社 東邦微生物病研究所 HP「微生物による食品の化学変化~発酵と腐敗とは~
※2:米国の大豆が遺伝子組み換えされている点、また、大豆に含まれるイソフラボンの過剰摂取で乳がんのリスクが上昇するといった研究が一般に広まったことなどから、大豆の摂取を避ける消費者がいるため。
※3:反栄養素=抗栄養因子とも言われ、栄養素の代謝や機能を阻害したり、栄養素を分解する因子
プラントベースタンパク質源に見られる反栄養素
●大豆: 植物エストロゲン、トリプシン阻害剤活性(TIA)
●エンドウ豆: ガラクトシド、フィチン酸、 TIA
●ジャガイモ: グリコアルカロイド、TIA
●菜種(セイヨウアブラナ): エルカ酸
●赤インゲンマ豆: フィトヘマグルチニン(インゲンレクチン)
●コメ: 重金属(As/ヒ素);米カリフォルニア州法65に基づく警告リスト(Prop 65)に掲載
●ワタ(綿): ゴシポール ( ゴシポール: ワタが生合成するテルペノイド)
「NNB 2021年8月号 ポイント解説セミナー資料より抜粋」
出典:The Good Food Institute 
(代替タンパク質 企業データベース)
(The science of fermentation )
※図1、2:動画
The State of the Industry 2021: Fermentation for alternative proteins
※図3:Foovo  記事 
「精密発酵でアニマルフリーなチーズを開発するFormoが約55億円を調達」
A forgotten Space Age technology could change how we grow food | Lisa Dyson

(株)グローバルニュートリショングループ 寺門 夕里

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