~健康食品市場30年の振り返り~
私が健康食品業界に身を置いて32年が経過した。平成の時代は幕を閉じ、令和という新しい時代が始まった。
ここで、平成における健康食品事情を振り返ってみたい。
健康食品業界には一過性のブームが度々起きた。特定の食材(素材や成分)がTVなどの健康情報番組で取り上げると、スーパーの売り場からその食材は姿を消す、といった現象も多々あった。しかし、それらのブームは長続きせず、次の新しいブームが起こることの繰り返しであった。
平成の30年間には消費税が0%から3%、5%、そして8%にまでになった。また、特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品、そして機能性表示食品の3つの保健機能食品制度が平成30年の間に誕生した。この機会に30年間の健康食品市場を振り変えると共に、最新のトレンドと今後を予測してみたい。
1980年代~機能性食品誕生、トクホ制度への発展~
スポーツドリンク、アイソトニックウォーターというカテゴリーが生まれたのは1980年代前半である。
「ポカリスウェット」が1980年、「アクエリアス」が1983年に登場し、その後、大きなカテゴリーを作ることとなった。また、バランス栄養食というカテゴリーも1983年に「カロリーメイト」の登場によって作られた。このカテゴリーは、この後、ニュートリションバーとゼリー飲料というカテゴリーへと発展していくことになる。
この頃は、毎年のようにダイエット食材が話題となっては消えていった。
「紅茶キノコ」「蒟蒻ダイエット」、「健康茶(ハトムギ、月見草)ダイエット」、「りんごダイエット・ゆで卵ダイエット」等、ひとつの食品ばかり食べ続ける偏ったダイエット法が横行した。そのような背景に、日本初のフォーミュラー食による食事代替型ダイエット食品である「マイクロダイエット」が1989年、発売された。
1984年、旧文部省が機能性研究の特定研究「食品機能の系統的解析と展開(1984 ~ 1986年)」をスタートさせた。このプロジェクトは世界で初めて、食品の機能に関する概念の提案と、その解析のための研究を推進した。この研究には、食品の第一次機能から第二次機能、第三次機能を網羅し、さらに病態と食品機能、食品の劣化抑制、食品の品質変換操作、機能性食品の設計基盤まで盛り込まれた。
その結果、1987年の厚生白書に機能性食品の概念図が示されることになった。このときの機能性食品の定義は、「食品成分の持つ生体防御、体調リズム調節、疾病の予防と回復などに係わる体調調節機能を、生体に対し十分に発現できるよう設計し、加工された食品であること(厚生白書(昭和62年版))」であった。
その後、「食品の生体調節機能の解析(1988 ~ 1990年)」に研究が引き継がれ、1992年に「食品の生体調節機能」として研究成果が出版された。ここには、生体調節機能(第三次機能)に焦点を絞り、生体調節因子の構造、食品成分の受容・応答の機作、細胞分化誘導の機作、生体防御の機作、食品構造の修飾と新機能の開発がとりまとめられた。
この頃から機能性食品、機能性飲料という言葉が使われ始め、機能性飲料として「ファイブミニ」「鉄骨飲料」が登場した。
そして、機能性食品の名称は「特定保健用食品」と変わり、1991年に許可制度がスタートすることになる。国が個別商品ごとに審査をするというこの制度は、世界初の制度であり、世界中から注目された。
1990年代~ドラッグストア、価格破壊、健康食品が身近な存在に~
1990年代前半のブーム食品は、なんと言ってもキチン・キトサンであろう。富士バイオ㈱の「カニパック」の大ヒットを見て、各社からキチン・キトサン商品が続々と発売された。
この頃から、ドラッグストアでの健康食品販売が活性化していく。1カ月分1万円以上の商品が、店頭でディープディスカウントされることで値ごろ感を感じた消費者に支持され、売上が増加した。マンナンフーズ、オリヒロ、アスプロ等、薬系に特化した企業が躍進した。ドラッグストアでの売れ筋はダイエットサプリメントで、脂肪燃焼、吸収阻害、糖吸収阻害(ガルシニア、ラズベリーケトン、キトサン、ギムネマ、など)を訴求した商品が毎年、現れては消えていった。
このような健康食品=高額商品という世の中の流れに対して狼煙を上げたのが㈱ファンケルの「価格破壊宣言」であった。当時、1カ月分1万円以上が当たり前であった健康食品を、2,000~3,000円台で通信販売を開始し、健康食品業界に大きな衝撃を与えた。この後、健食通販時代が始まることとなり、「単品通販」という言葉が使われるようになった。
一方、TVなどメディアによる健康情報の発信が活発化し、TVで取り上げられた食材、素材が大ヒットし、ブームとなることが増えた。TVの健康情報番組により、杜仲茶、ココア、赤ワインなどがブームとなった。
1998年5月、花王「エコナクッキングオイル」がトクホの表示許可を受け、1999年2月、商品発売と共に、記者発表、記者との勉強会を開催した。「脂肪がつきにくい油」が大きな話題となり、新聞等に取り上げられ、「発掘!あるある大事典」「思いっきりテレビ」等TVの健康情報番組で紹介された。更に、女性誌の健康特集に取り上げられる、など大きな話題となり、短期間でヒット商品となった。
2000年代~様々な素材のブーム、健康情報番組の捏造~
健康への意識の高まりとともに、食生活に自然素材を活用する流れとなり、様々な素材がブームとなった。
「酢・黒酢」「ヨーグルト」「こんにゃく(こんにゃくゼリー)」「黒豆ココア」「寒天(寒天ダイエット)」「キャベツ」「キャベツ(キャベツダイエット)」「豆乳クッキー(豆乳クッキーダイエット)」「バナナ(朝バナナダイエット)」「トマト(夜トマトダイエット)」「小麦ふすま(小麦ふすま大ダイエット)」と、ダイエットがらみのブームが現れては消えていった。
納豆ダイエットの捏造
この背景には、TVの健康情報番組による情報発信があるが、2007年、当時大人気番組であった「発掘!あるある大事典」による捏造事件が発覚した。
『発掘!あるある大事典』(フジテレビ)は、1996年10月~ 2007年1月まで放送され、主に健康・からだ・食をテーマにした人気情報番組であった。2007年1月7日の納豆を取り上げた第140回「食べてヤセる!!! 食材Xの新事実」では、放送後に全国各地で納豆が売り切れるといった騒動になった。
この騒動が発端となり社内調査がおこなわれたが、その結果、実際には血液検査をおこなっていないにもかかわらず、虚偽のデータを放映したことが判明し、後に制作会社の社長らが謝罪した。
1月23日、この騒動により同番組は打ち切りとなったが、この捏造発覚はニュースや新聞で大きく報じられ、健康情報番組自体が批判されるようになった。
捏造の内容は、実際には血液検査をおこなっていないにもかかわらず、虚偽のデータを放映したこと、被験者がやせたことを示す比較写真で、被験者とは無関係の写真を使用したり、海外の専門家のコメントに対して異なる日本語訳を付けて放映したり、事実でない情報を放送していたことである。さらに、過去の放送でも複数回にわたって、データの捏造があったことも判明した。
寒天ダイエットの捏造
2005 年6 月12 日放送「寒天で本当にヤセるのか!?」
寒天でのダイエットを証明するための実験で、結果の改ざんがあった。
味噌汁ダイエットの捏造
2006 年2 月19 日放送「衝撃! 味噌汁でヤセる?!」
大豆ペプチドが体内に吸収される際に自律神経を刺激することや、とりわけ朝に味噌汁を飲むことでその効果が高まるという虚偽の内容を放映した。
番組中の大学助教授の「味噌は大豆製品のなかでも、もっともダイエット効果を見込めるものである」というコメントは、実際は「ダイエット効果はわからない。大豆ペプチドの吸収は納豆のほうが効果的」と説明していたにもかかわらず、吹き替えによりコメントを捏造していた。
さらに赤味噌を摂取した被験者がもっともやせた、との結論を出すために、あわせ味噌を摂取した被験者の体重差を小さめに改ざんしたことなども発覚した。
健康情報番組は、健康食品素材や成分のヘルス・ベネフィットを伝える役割が大きかったが、この事件により信用は失墜し、この後、TVの健康情報番組はNHKの「ためしてガッテン」くらいとなり、情報発信が難しい時代となった。
これら健康情報番組等により様々な素材・成分がブームとなった。
ダイエット分野では、「ビール酵母ダイエット」「セラシーン」「BOWS」「Vita Rosso (ラズベリーケトン)」「CoQ10」「L-カルニチン」「α-リポ酸」「フォースリーン」「アミノ酸ダイエット」「白いんげん豆」、などなど。
そして、食事代替型ダイエット食品分野では、「マイクロダイエット」の大ヒットに刺激を受け、2005年にキリン「リエータ」が大幅リニューアルを行い、ドラッグストア、通信販売で大攻勢をかけた。
1食1,200円の「マイクロダイエット」に対して「キリン リエータ」は1食500円と低価格路線を打ち出した。
その後、アサヒフードアンドヘルスケア「スリムアップスリム」、サントリー「diet’s」、ファンケル「スリムスマイル」、ディーエイチシー「プロティンダイエット」、味の素「Adiet」など大手企業が続々と商品を発売した。
トップブランドの「マイクロダイエット」は、2005年には約500億円の売上を上げていたが、相次ぐ競合商品の参入により売上を落としていった。しかし、市場そのものもシュリンクしていき、多くの商品は終売となり、現在も残っているのは「マイクロダイエット」「スリムアップスリム」「プロティンダイエット」「ヒルズダイエット」など、限られた商品のみである。
「CoQ10」「α-リポ酸」「L-カルニチン」のブーム
2000年代前半、食薬区分の改正により、「専ら医薬品」であった成分が「非医薬品」となることで、ブームとなった成分があった。代表的な成分が「CoQ10」「α-リポ酸」「L-カルニチン」である。
「CoQ10」
2004年にテレビの健康情報番組や雑誌で取り上げられる機会が増加し、空前のCoQ10ブームとなった。ダイエット効果、アンチエイジング効果、美肌効果が紹介され、ネット、通販、店頭すべてのチャネルで売り切れ状態になる。その為、国内のCoQ10原料が枯渇し、原料メーカーが相次いで増産体制をとり、海外からの輸入を探る企業も現れた。しかし、2006年にはこのブームは終焉した。
「α-リポ酸」
2005年に「あるある大辞典」で取り上げられブームとなったが、そのブームは一過性のもので終わってしまった。これは、TV番組により、α-リポ酸を摂取するだけで痩せられるという印象を受けた消費者がα-リポ酸を摂取したが、期待した減量効果を得られなかったため、消費者離れが起きことが背景にある。また、TV番組、その後の過熱したα-リポ酸のブームを受けて、2005年3月、国立健康・栄養研究所がα-リポ酸のダイエット効果は「不明」と発表した。
「L-カルニチン」
2005年にテレビ番組でとりあげられたことを機に認知が高まり市場は急拡大したが、2006年以降は番組放送中止もあり市場は縮小した。
メタボリックシンドロームという言葉の普及と共に、体脂肪・内臓脂肪を訴求したトクホ飲料が次々と発売されたのもこの頃である。花王「ヘルシア緑茶」は2003年、サントリー「黒烏龍茶」は2006年の発売である。また、「コカ・コーラゼロ」や「ペプシネックス」など「ゼロ訴求」飲料もこの後、発売された。
一方、内臓脂肪低減効果をうたったOTC医薬品もヒットした。小林製薬「ナイシトール」、ロート製薬「和漢箋」、どちらも2006年発売である。
家庭で楽しんで体を動かすエクササイズも話題となった。任天堂「Wii fit」、「ビリーズブートキャンプ」「コアリズム」など、2007年発売である。この頃、ダイエットサプリメント、食事代替型ダイエット食品市場はこれらの影響も受け、低調であった。
「エコナショック」
2005年頃から、ブルーベリー(ビルベリー)サプリメント、グルコサミンなど関節訴求サプリメントが成長を始めた。また、2006年にはコラーゲンブームとなり、明治製菓「アミノコラーゲン」、資生堂「ザ・コラーゲン」がけん引役となり、市場拡大が始まった。
2009年9月、当時のトクホの代表的な商品であった花王「エコナクッキングオイル」とそのシリーズが販売自粛および出荷停止となり、10月には特定保健用食品の表示の失効届を提出するという事件が起きた。
発端は2009年7月に、体内で発がん物質に変わる可能性があるグリシドール脂肪酸エステルが「エコナ」に高濃度で含まれており、安全性の審議がおこなわれている、という厚生労働省からの報告であった。
9月16日、花王はグリシドール脂肪酸エステルが、一般食用油と同等レベルに低減されるまでの当分の間、「エコナ」全商品、さらにジアシルグリセロールを含有するドックフード「ヘルスラボ」全商品の一時販売自粛と出荷停止を決定した。そして、10月8日に消費者庁に特定保健用食品の許可の失効届を提出した。
一連の出来事は「エコナショック」として、今も多くの読者の記憶に残っているであろう。
2010年~現在~
サプリメント市場では、ブルーベリー(ビルベリー)サプリメントによる「目の健康」訴求、グルコサミン、ヒアルロン酸などによる「関節の健康」訴求、成長が止まったコラーゲンに変わってプラセンタによる「美肌」訴求の3訴求の成長が続き、「成長御三家」と呼ばれていた。代表的な100億円越え商品は、わかさ生活「ブルーベリーアイ」、エバーライフ「皇潤」、サントリーウェルネス「グルコサミン&コンドロイチン」などがある。
2011年3月11日、東日本大震災が起こった。その後の自粛ムードの影響で宴会などが減った影響もあるのか、それまで成長を続けてきたハウスウェルネスフーズ「ウコンの力」が2011年、大きく売上を落とした。
その後、若者の飲酒離れ、ゼリア新薬「ヘパリーゼW」シリーズの台頭もあり、売上を落とし続けている。
他方、「レッドブル」は2011年から急成長しており、エナジードリンクカテゴリーがホットである。
2010年代は、トクホ飲料の好調が続いた。
前出の「ヘルシア緑茶」、「黒烏龍茶」に続き、2012年にはキリンビバレッジ「キリンメッツコーラ」、サントリー食品インターナショナル「ペプシスペシャル」が、何かと話題となったトクホコーラが相次いで発売された。
その後、サントリー食品インターナショナル「伊右衛門 特茶」が発売され、今では、トクホNo.1ブランドにまで育っている。
2014年にはコカ・コーラシステム「からだすこやか茶W」、アサヒ飲料「食事と一緒に十六茶W」といったダブルトクホが登場した。
R-1ヨーグルトの登場!
2009年12月1日、明治「R-1ヨーグルト」が地方限定で発売された(全国販売は2012年3月30日)。
その間、2010年9月~2011年3月、佐賀県有田町と有田共立病院による共同研究が行われた。明治から無償提供された「R-1」飲料タイプを、 町内の小中学生約1900人に給食後1本、継続的に飲ませた結果、生徒のインフルエンザ発症率や 欠席率が、周辺市町や県の統計の数値のわずか1割程度になった。
この調査結果を有田共立病院の井上文夫病院長が8月9日、東京都内のセミナーで発表したところ、翌日の全国紙で報道され、12日 「ひるおび」で新聞記事が紹介されると、各メディアで取り上げられた。
更に、2011年秋 インフルエンザワクチン不足不安ニュース多発し、有田町スタディが朝夕のTV番組、昼時間帯の情報番組で紹介される。その結果、「R-1ヨーグルト」品切れ続出し、そのこと自体がニュースになった。
そして、2012年3月に全国販売となる。
2011年の「R-1ヨーグルト」の売上は13億円であったが、翌年には一気に215億円となり、2017年ではシリーズ合わせて784億円となっている。「R-1ヨーグルト」のヒットから、「機能性ヨーグルト」の人気が高まり、従来の「整腸」以外の機能性を訴求するヨーグルトが増えてきた。
スーパーフード、糖質オフ、腸活がトレンド
そして近年は、アサイー、チアシード、キヌアなど「スーパーフード」のブーム、「糖質オフ」ブーム、そして「腸活」トレンドが挙げられる。「スーパーフード」ブームは落ち着いた感があるが、「糖質オフ」の新商品は相変わらず続いている。しかし、「糖質オフ」だけでは売れない、ということも分かってきたようだ。
そして、今最も話題となっているのが「腸活」である。
従来のプロバイオティクスから、善玉菌のエサとなるプレバイオティクス、或いは両者を合わせたシンバイオティクス、更に善玉菌の代謝物に着目したポストバイオティクスに注目が集まっている。
数年前から続いている大麦(もち麦)ブーム、そして2016年から話題となっているスーパー大麦「バーリーマックス」(帝人)は、レジスタントスターチに注目し、大腸の奥まで届き、短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロビオン酸)が産生されることを訴求している。各種メディアに取り上げられ、「スーパー大麦バーリーマックス」を原料とする「スーパー大麦グラノーラ」(帝人)が、2016年12月7日「Yahoo!検索大賞2016」において食品部門賞を受賞した。現在は、ファミリーマートのおにぎりにも使用されるなど、好調が続いている。
そして、機能性表示食品の新たな機能性関与成分となった「イヌリン」も今後の成長が期待される。腸やマイクロバイオームに関する新しい研究成果が次々と出ており、当面、この番屋の注目度は高いであろう。
また、昨今の欧米では、体重管理を行う消費者は、低糖、サラダ、ヨーグルト、ヘルシー志向のレストランなどで、2~3kgの体重を調節しながら、毎日の普通の食生活の中で体重を管理する傾向にある。この現象を、ダイエットやウェイトマネジメントから「ウェイトウェルネス」への変化と呼んでいる。これらに関心を持つ消費者市場では次の5点が重要なキードライバーとなっている。
- 消費者がメソッドを決める
- テクノロジー
- 日常におけるウェイトウェルネス
- プロテイン強化食品
- 良い炭水化物、悪い炭水化物
ウェイトウェルネスは「体が健康でハッピーだと思う最適体重」と位置付けられている。つまり、美的なもの、体型、体重、サイズなどを気にするのではなく、心地よく、活力を感じる、自信を持ってセクシーでかつ楽しく暮らせるような感情的なものを大切にするという感覚である。この流れは、既に日本でも兆しを見せており、次のトレンドになることは間違いないであろう。
機能性表示食品制度スタート~市場動向について~
健康食品平成物語の中で、最も大きな話題が機能性表示食品制度であろう。食品の機能性表示の容認が実現したことは画期的な出来事である。制度の詳細については触れないが、市場動向についてまとめておく。
2017年のトクホの企業出荷ベースの売上は3,849億円、機能性表示食品の売上は1,716億円となっている。
トクホは大企業が多いため売上の大きな大型商品が存在するが、機能性表示食品では100億円越えの商品はまだ3ブランドしか存在しない。
ヘルスベネフィット別では、一般加工食品では、「生活習慣病対応」が613億円で約60%の構成比、次いで「整腸」が249億円で約24%の構成比となっており、この両者で84.5%を占めている。
一方、サプリメント形状の加工食品では、「体脂肪・内臓脂肪低減」が約183億円で26.5%、「目の健康」が約119億円で17.2%、「筋肉の維持」が108億円で15.6%、「関節の健康」が約94億円で13.5%、「メンタルヘルス」が約64億円で9.3%と多様性が見られる。
機能性関与成分別にみると、届出件数が多い「乳酸菌・ビフィズス菌」が約372億円で構成比21.7%、次いで「難消化性デキストリン」が約214億円で12.5%、「ルテイン」約88億円で5.1%となっている。
機能性表示食品の成功する条件とは
機能性表示食品全てが好調とは限らず、中には終売した商品もある。これまで何度も述べてきたが、機能性表示だけで売れるわけではない。成功している商品は、
- 露出を高める
- 新しい発見がある
- 継続性
のいずれか、あるいは複数の条件を満たしている。
1.露出を高める
資金力がある企業は広告宣伝費を投下することで可能だが、資金力に限りがある企業は、知恵を使って露出を高める必要がある。例えば、野菜第1号となった㈱サラダコスモは多くのメディアの取材を受け、記事などに取り上げられたが、決して受け身ではなく、積極的な広報活動の結果であることはあまり知られていない。資金がない企業は知恵と努力で露出を高めるしかない。
2.新しい発見がある
これまでのトクホとは異なる機能性、健康食品では出来なかった訴求により、消費者が「新しさ」を感じるものである。例えば、従来のアイヘルスサプリメントは「目の疲労感軽減」の訴求が多かったが、㈱ファンケル「えんきん」は「眼のピント調節機能」という新しい機能であり、消費者からみれば、新しい発見である。また、雪印メグミルクの(ドリンク)ヨーグルトで「内臓脂肪低減」も新しい発見である。一方、トクホと同じ成分で、同じような訴求の商品は苦戦しているように見受けられる。
3.継続性
同じ機能を訴求した商品でも、食事の一部になるものは継続性が高い。例えば、お米と一緒に炊く大麦製品などは継続性が高いであろう。また、「ガセリ」等の飲みきりサイズのドリンクヨーグルトは、継続性が高い。
機能性表示食品は、機能性(ヘルスベネフィット)の種類もトクホの11種類の3倍の32種類(㈱グローバルニュートリショングループによる分類)となっており、今後も増えていくであろう。機能性の科学的根拠の確認が企業による研究レビューでも良い点、ヘルスベネフィットの幅が広い事、商品形態がバラエティに富んでいることなど、機能性表示食品は今後も商品数が増え、市場が活性化することが予想される。
問われる企業姿勢
しかし、一方で、安全性や機能性の担保が企業任せであるが故に、その内容に対する疑義も生まれている。また、成分分析をはじめとする品質保証の内容(機能性関与成分の量の過不足、バラツキ、など)についても、消費者庁が実施した検証事業で問題が指摘されている。更に、機能性表示食品の広告のあり方についても、問題視されている。
2016年1月から11月まで開催された「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取扱い等に関する検討会」の報告書に、「本制度の適切な運用に向けた事業者の責務」として
「本制度は、企業等の責任において届け出る制度であり、消費者の信頼があって初めて成り立ち得る制度である。」
「届出者等には、届出前の届出資料の確認、品質管理、事後的な機能性及び安全性に関する科学的根拠の確認など届出者等自らが倫理観を持って本制度の信頼の確保のために努力することが求められる。」
「また、届出者等は、「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(平成28 年6月30 日全面改定)に基づき、容器包装の表示のみならず、広告の適正化に努め、景品表示法及び健康増進法を遵守すべきである。」
と示された。それにもかかわらず、葛の花イソフラボンで16社19商品の広告に対して措置命令が下され、9社に対して課徴金納付命令が下されたことは記憶に新しい。
制度の健全な発展、普及のために、企業姿勢が問われていることを忘れてはならない。
3月28日のガイドライン改正により、機能性関与成分に、新たにエネルギー源とならない糖質・糖類としてオリゴ糖や糖アルコール類などが追加された。また、データベース改修が終わった段階で「エキス等」も追加されることが決まっている。新しい商品の届出は今後も増加するであろう。
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