こんにちは、GNGの和泉です。
9月26日号のグローバルニュースをお届けいたします。
今号も、海外業界メディアから数多くの業界最新ニュースを取り上げています。ぜひご覧ください。
ご存じの方も多いと存じますが、今月16日、2021年度の日本の概算医療費が前年度比で4.6%増加し、過去最高の44.2兆円となったことが厚生労働省から発表されました。概算医療費とは、「国民の病気やけがの治療にかかった「国民医療費」のうち労災保険や全額自己負担のケースを除いた金額を指す(日経新聞より抜粋)」ものです。増加の主な要因として、新型コロナウイルス感染拡大での受診控えによる減少の反動が挙げられていますが、この先は団塊の世代が後期高齢者となり、医療費は今後さらに増加していく見通しです。
今年の8月末、米国の業界団体、栄養評議会(Council for Responsible Nutrition)が運営するCRN財団により、経済報告書が公表されました。Frost & Sullivan社により作成された同報告書は、特定の集団が特定のダイエタリーサプリメント成分を使用することで、冠動脈疾患、骨粗しょう症、加齢黄斑変性、認知機能の低下、IBS、小児認知発達障害など、多くの慢性疾患や状態に関わる直接的および間接的な医療費削減の可能性を実現できると結論付けています。米国疾病対策予防センター(CDC)によると、全米の医療費の75%以上が慢性疾患を持つ人々のために費やされているそうです。
医療費に加え、これらの慢性疾患による労働生産性の損失は、年間2,600億ドル以上にも上りますが、米国の予防医療サービスに対する投資額は、医療費総額の3%未満にとどまっています。報告された医療費削減の一例として、認知機能低下リスクが高い人々が予防としてビタミンB6、B9、B12を摂取した場合、270,642件の医療行為が予防され、2022年から2030年にかけて976億4,000万ドルの節約が可能とのことです。CRNは、サプリメントによる予防医療への投資が米国人の慢性疾患予防に役立つことを示す臨床研究が着実に増加している、と述べています。
但し、消費者が自身でサプリメントを選んだ場合、必要ではない栄養素、もしくはすでに足りている栄養素を過剰摂取してしまう恐れもあります。さらに医薬品を服薬している場合、サプリメントとの飲み合わせにも注意が必要です。
米国に限らず、超高齢化社会の日本も医療費削減は重要課題のひとつです。今後、医療機関と予防医療に精通した専門家や管理栄養士などの協力体制がますます重要になると思われます。
和泉 美弥子
この記事について
GNGでは、会員向けに世界各国の健康・食・栄養に関するニュースをセレクトし、日本語に要約したものを月に2回、ニューズレター「GNGグローバルニュース」として配信しています。
本日配信したグローバルニュースでは、アジアのプラントベースたんぱくスタートアップ市場、2025年までに25%の成長見込み 、水耕栽培のマイクロ菜園が宇宙へ 、酪酸塩が食物アレルギーをなくす鍵を握る可能性を新たな研究が示唆、など12の記事を取り上げています。
この記事では、その会員向けニューズレターの一部を抜粋してご紹介させていただきます。
……グローバルニュートリション研究会 会員企業様は、会員サイトにて、すべての記事をお読みいただけます。
■GNGグローバルニュース 2022年9月26日号 トピックス
Market News マーケット
●アジアのプラントベースたんぱくスタートアップ市場、2025年までに25%の成長見込み
●モニター結果:ニッチな食事から抜け出しつつある消費者たち
Products News 商品情報
●水耕栽培のマイクロ菜園が宇宙へ
●イスラエルの研究、世界的な食糧危機を緩和する超高栄養価の海藻を発表
Science News サイエンス
●カフェインが健康な若い被験者の短距離走タイムを短縮
●フィッシュオイルが高脂肪・高糖分食による炎症反応を鎮める可能性
●酪酸塩が食物アレルギーをなくす鍵を握る可能性を新たな研究が示唆
●柑橘類とザクロの複合体が、高齢者の体力などをサポートしQOLを高める可能性
●ラクトバチルスカゼイ63は高齢者のサルコペニア改善に有用である可能性
Company News 企業情報
●スコットランドのスタートアップが微細藻類の生産を加速するための資金調達を実施
●欧州で発酵食品に関する大規模研究プロジェクト「HealthFerm」が始動
Regulatory News 法規制
●胎児の神経管閉鎖障害予防で小麦粉への葉酸強化の義務化を協議:英国
[今号のハイライト]
酪酸塩が食物アレルギーをなくす鍵を握る可能性を新たな研究が示唆
[2022/8/31] [foodnavigator.com]
Chicago大学による新たな研究で、酪酸塩がアレルギー疾患の症状軽減に役立つ可能性が示唆された。
-食物アレルギーは決して珍しい病気ではない。EUアレルギー及び気道疾患患者協会連合(EFA)のデータによると、EU諸国では年間1700万人が食物アレルギー反応に苦しんでおり、そのうち350万人は25歳以下だという。過去10年間で、アレルギーを持つ5歳以下の子どもの数は2倍になり、アナフィラキシーショックの治療のために緊急治療室を訪れる人も7倍に増えている。
シカゴ大学のJeffrey Hubbel博士は、アメリカ化学会が最近開催したメディア説明会で、「食物アレルギーやその他のいくつかの慢性疾患は、過去数十年間で劇的に増加している」と述べた。「これらの多くは、健康な腸内細菌叢の欠如と関連している」と説明した。
腸内細菌の中には、酪酸などの代謝物を産生し、善玉菌の増殖を促し、腸の粘膜を維持するものがある。もし、これらの酪酸産生菌が不足していると、部分的に消化された食物の断片が腸から漏れ出し、免疫反応を起こしてアレルギー反応を引き起こす可能性がある。Hubbel博士率いる研究チームは、酪酸塩が実験においてアレルギー反応に対して明るい見込みを示したことに注目した。
同研究チームは患者に不足している微生物の経口投与や糞便移植をする代わりに、健康な腸内細菌叢で産生される酪酸のような代謝産物を投与してはどうかと考えた。しかし、これは単純な話ではない。酪酸は、犬のフンや腐ったバターのような非常に悪い匂いを放ち、たとえ飲み込めたとしても、下部消化管に到達する前に消化されてしまうため、新しいデリバリーシステムが必要だった。この課題を克服するために、研究チームは酪酸根を側鎖に持つメタクリルアミドとメタクリル酸またはヒドロキシプロピルメタクリルアミドからなるコポリマーを作った。「得られたポリマーは、自己集合して高分子ミセルを形成し、その核に酪酸側鎖を収納し、化合物の悪臭と味を覆い隠した」と発表している。
研究チームは、健康な腸内細菌や腸の内壁が正常に機能していないマウスの消化器官に、これらのミセルを投与した。消化液が下部消化管で酪酸を放出した後、不活性ポリマーは糞便中に排出された。その結果は有望で、「マウスに投与したミセル治療により、腸の保護バリアと腸内細菌叢が回復した」とした。これは、有害な細菌を死滅させるペプチドの産生を増加させ、酪酸産生菌のためのスペースを確保したことが一因であった。
「もっとも重要なことは、アレルギー体質のマウスにミセルを投与することで、ピーナッツにさらされたときに起こる生命を脅かすアナフィラキシー反応を防ぐことができたことである。このアプローチは、ピーナッツアレルギー以外の治療にも使えるかもしれない。理論的には、腸内環境を整えることであらゆる食物アレルギーに広く応用できるはずである。私たちは、この酪酸を含むミセルを、食物アレルギーや慢性炎症性疾患などの治療薬として用いることを目指している」と研究チームは締めくくった。
(会員向けニューズレター「GNGグローバルニュース2022年9月26日号」より抜粋)
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和泉 美弥子
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