こんにちは、GNGの和泉です。
2020年12月14日、国連総会は2021-2030年を、「健康的に歳を重ねる10年(The Decade of Healthy Ageing)」と宣言しました。
WHOのウェブサイトによると、このイニシアチブは次のことを目指すものです。
・年齢と高齢化に対する私たちの考え方、感じ方、行動を変える。
・高齢者が地域社会や社会に参加し、貢献する能力を促進する。
・個人のニーズに対応する統合ケアとプライマリヘルスサービスを提供する。
・それらを必要とする高齢者に長期に利用できるよう提供する。
平均寿命
皆様もご存知の通り、日本人の「平均寿命(0歳時点で何歳まで生きられるかを統計から予測した平均余命)」は年々延び続けています。
2020年7月31日、厚生労働省が簡易生命表を発表し、2019年の日本人の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳となりました。男女共に8年連続のプラスとなり、前年に比べ、女性は0.13歳、男性は0.16歳延びています。女性は5年連続で世界2位、男性は3年連続で世界3位となりました。
そして、このデータでは平均寿命の延びは日本だけでなく世界的なものであることが分かります。
平均寿命世界1位の香港
香港は男女ともに平均寿命世界1位となり、5年連続でトップに君臨し続けています。香港の男性の平均寿命は82.34歳、女性は88.13歳だそうです。
これには様々な理由が考察されていますが、まず香港では公立病院においても医療レベルが高水準であること、緊急対応できる病院が多く、市民が利用しやすいことなどが重要な要因だとされています。
そしてライフスタイルの観点からは、「医食同源」で漢方を取り入れた日々の食生活、適度な運動やコミュニケーションが盛んであることなどが挙げられています。
香港特別行政区政府(以下、香港政府)は2000年から「健康促進プロジェクト」を推進しており、高齢者が気軽に運動を楽しめるよう公園に健康器具が多く設置され、運動できる公共施設や体育館も増設されています。
香港政府は高齢者対策の原則を在宅介護としており、高齢者が自立した社会生活を営むための支援を行っているそうです。
昨年JETROが発行したレポートによると、香港政府が2018年3月に発表した「2016年中期人口統計(2016 Population By-census)」のデータでは、香港における「エイジング・イン・プレイス」(介護施設などに入居せず自宅やコミュニティで独立して生活する高齢者のライフスタイル)の割合が91.9%となり、ほとんどの高齢者が自宅で生活しているということです。
2016年時点での香港の65歳以上の高齢者人口(外国人メイド数を含む)は、2006年(約85万人)から36.4%増加し116万人に達しました。さらに2019年時点では約135万人に増加しているそうです。
香港政府は今年の1月14日、高齢者向け生活手当の制度改革を発表しました。
香港の日本語情報メディア、香港ポストによると、65歳以上を対象とする高齢者向け生活手当の受給資格の資産上限を引き上げ、受給資格者は一律で毎月3,585HKドル(48,612円(※1))が支給されることになるそうです。
約5万人の毎月の支給額が910HKドル(12,340円)増えるほか、新たに約10万人が受給資格を得ると言われています。なお、この高齢者向け生活手当は積立金などは必要なく、毎月支給されます。
それ以外にも、70歳以上を対象にした「生果金(フルーツ助成金)」と呼ばれる手当も存在します。(こちらは上記の高齢者向け生活手当と重複して受給は出来ないそうです)。
ちなみに、香港では公的な国民年金制度が導入されておらず、2000年から確定拠出型の年金制度(MPF)が導入されていますが、これはフルタイムの被雇用者および自営業者が対象なのだそうです。
健康寿命
一方で、近年非常に重要視されている「健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)」についても改めてご紹介いたします。
世界保健機構(WHO)は2020年12月4日、最新の「世界の健康寿命 国別ランキング(Life expectancy and Healthy life expectancy Data by country)」を公表しています。
それによると、2019年の世界一位は日本で、健康寿命は74.09歳でした。内訳は、男性72.64歳、女性75.48歳となっています。2位はシンガポールで73.55歳、3位は韓国の73.06歳と続きます。なお、英国は34位の70.62歳、米国は83位の67.02歳でした。
前述の香港は個別の対象地域ではありませんが、もし香港がランキング対象地域となった場合、かなり上位に食い込むのではないかと推測されます。
ちなみに、厚生労働省が2016年に発表した最新のデータでは、日本人の健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳でした。
平均寿命と健康寿命の差を縮めるために
健康寿命世界1位とはいえ、日本人の平均寿命と健康寿命の差は、男性で約9年、女性で約12年あります。
ほとんどの方がご存知の方だと思いますが、この健康寿命と平均寿命との差が近年において大きな課題となっています。
厚生労働省が発表した「2019年 国民生活基礎調査の概況 Ⅳ介護の状況(※2)」によると、介護が必要となった主な原因の第1位は「認知症」、2位は「脳卒中」、3位は「高齢による衰弱」でした。
さらにその他の上位の原因として、「関節疾患」、「骨折・転倒」があがっています。これら骨や関節、筋肉などの運動器の障害がロコモティブシンドローム(運動器症候群、以下ロコモ)です。
ロコモ、サルコペニア、フレイルという名称はすでに広く知れ渡っているため今更ではありますが、これらの概要は以下の通りです。
ロコモ
「立つ」「歩く」といった移動機能が低下している状態を示します。骨・関節・筋肉・神経などの組織の障害によって立ったり歩いたりするための身体能力(移動機能)が低下した状態です。ロコモが進行すると介護が必要になるリスクが高くなるとされています。2007年に日本整形外科学会により提唱されました。
サルコペニア(筋肉減少症)
「筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態」を示します。高齢者の身体機能障害や転倒のリスク因子になり得るとされています。
フレイル
「加齢に伴い身体的機能や認知機能の低下が見られる状態」のことを示します。健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間で、ロコモ、サルコペニアとは違い身体機能のみを指すものではありません。フレイルは、筋力低下などの身体的要素、認知症やうつなどの精神的・心理的要素、独り暮らしや経済的困窮などの社会的要素で構成されます。
高齢化に伴い様々な影響を受けることで活動量が低下し、食事の摂取量が減り、低栄養の状態になり衰弱状態に陥ってしまうのがフレイルの特徴と言われています。2014年5月、日本老年医学会にて提唱されました。
せっかく長生きできるのなら、健康的に楽しく生きていきたいと思うのは当然ながら私だけではないはずです。しかし、この10年間で日本人平均寿命と健康寿命の差はほとんど縮まっておらず、それが簡単ではないことが分かります。
少しでもこの差を縮め、健康寿命を延ばすことを目的として始まったのが、産官学連携の取り組みのひとつである「スマート・ライフ・プロジェクト(※3)」です。
これは、厚生労働省が2011年2月に国民の生活習慣の改善、そして健康寿命を延ばすことを目的として開始したもので、これは平成20年度から実施してきた「すこやか生活習慣国民運動」をさらに普及・発展させたプロジェクトです。
このプロジェクトの3つのキーワードは「運動」「食生活」「禁煙」で、「毎日プラス10分の身体活動」、「1日あと70gの野菜をプラス」、「禁煙でタバコの煙をマイナス」、そして「健診・検診で定期的な健康チェック」を推進しています。
現在同プロジェクトで謳われている「1日あと70gの野菜をプラス」ですが、2014年の時点で推奨されていたプラスする野菜の量は「あと100g」となっていました。日本人の野菜を食べる量が増え、食生活に対する意識が少しずつ向上していることを表しているのではと感じています。
健康寿命を延ばすためには、普段から適度な運動による筋力の維持や、食生活に気を配る必要があります。さらに閉経後の女性は骨密度が急激に低下するため、大豆イソフラボン、ビタミンD、K、カルシウムなど骨の健康を維持する成分を積極的に摂ることが推奨されます。
食事では補いきれない栄養素をサプリメントで摂取することも考えてみてはいかがでしょうか。
※1 執筆時換算レート(1HKD(香港ドル)/13.56円)
※2 2019年 国民生活基礎調査の概要 Ⅴ介護の状況
※3 スマート・ライフ・プロジェクト
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和泉 美弥子
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