ウェルネスフード・ワールド第138号|Longevityは健康食品市場を変えるのか ― 科学はHealthspanまで到達しているのか ―【第2回】

こんにちは、GNG武田です。

前号は、Longevityを一つの機能やベネフィットではなく、健康な状態を長く維持するための共通の文脈として整理しました。今号は、その文脈を支える科学が、実際にHealthspanのどこまで到達しているのかを考えます。

最初に、加齢と老化を分けて考える必要があります。加齢は、生まれてから時間が経過し、年齢を重ねることです。誰もが1年に1歳ずつ年齢を重ねるため、加齢そのものを止めることはできません。一方の老化は、加齢に伴って細胞、組織、臓器に生じる生物学的変化です。同じ暦年齢でも身体機能や疾患リスクが異なるように、老化の進み方には個人差があります。

老化研究では、ゲノム不安定性、テロメア短縮、エピジェネティックな変化、ミトコンドリア機能不全、細胞老化、慢性炎症、腸内細菌叢の変化などが研究されています。2023年に発表されたHallmarks of Agingでは、老化を構成する12の特徴が示されました。これらは、加齢に伴って現れ、その変化を強めると老化が促進され、介入によって抑えると老化を遅らせる可能性があるという条件で整理されています。

この研究の進展によって、老化は避けることのできない一方向の衰退だけではなく、介入可能性を持つ生物学的プロセスとして捉えられるようになりました。ただし、老化メカニズムに変化が起きたことと、人が健康で機能的に生活できる期間が延びたことは同じではありません。

両者の間には、いくつかの段階があります。老化メカニズムの変化が細胞の状態へ影響し、それが筋力、認知、睡眠、代謝などの人の機能へつながり、その機能の変化が日常生活におけるヘルスベネフィットとして確認され、長期的なHealthspanへつながります。

Cellular Healthは、この流れの中で、老化メカニズムと人の機能をつなぐ細胞レベルの状態として位置づけることができます。エネルギー産生、維持と修復、分解と再利用、ストレスへの応答、細胞間コミュニケーションなどが含まれます。ただし、Cellular Healthにも国際的・公的な統一定義は確認できません。また、細胞の状態が改善したこと自体は、生活者が実感できるヘルスベネフィットではありません。

NAD+研究は、この距離を理解する一つの例です。NAD+は、エネルギー代謝やさまざまな酵素反応に関わる補酵素です。NRやNMNなどの前駆体を摂取することで、血中NAD+や関連代謝物が増加することは、複数のヒト試験で確認されつつあります。

2026年に『Nature Metabolism』へ掲載された研究では、健康成人65人を対象に、NR、NMN、ニコチンアミドとプラセボを比較しました。14日間の摂取によって、NRとNMNは循環血中のNAD+濃度を増加させました。研究では、NRやNMNが腸内細菌によってニコチン酸へ変換され、その代謝経路を通じてNAD+増加に関与する可能性も提示されています。

この研究から確認できるのは、一定の条件下でNRやNMNが血中NAD+濃度と微生物代謝へ影響したことです。疲労感、身体機能、認知機能、生活の質、疾患リスク、Healthspanの改善までを確認した研究ではありません。バイオマーカーの変化から、生活者が期待できる効果へ直接進むことはできません。

Aging Clockにも同様の注意が必要です。第1世代のエピジェネティック・クロックは、DNAメチル化情報から暦年齢を推定するために開発されました。第2世代では疾病や死亡リスクに関係する指標が組み込まれ、第3世代のDunedinPACEなどは老化が進む速度の推定を目指しています。目的や構成要素が異なるため、どのClockを使用したかによって結果の意味も変わります。

Aging Clockの数値が変化したとしても、それだけで将来のHealthspanが延びたとは判断できません。Aging Clockは、特定のバイオマーカーから年齢、リスク、老化速度を推定するモデルであり、老化そのものを直接測る時計ではないからです。

老化研究は急速に進歩していますが、科学的な可能性と、商品として約束できるヘルスベネフィットとの間には距離があります。その距離を省略すると、Cellular Health、NAD+、Aging Clockといった言葉が、科学用語から過度な期待を生むマーケティング用語へ変わってしまいます。

科学から生活者価値への翻訳には、どのメカニズムが変化したかだけではなく、その変化がどの人の、どの機能へ働きかけ、日常生活のどのようなベネフィットにつながったかを確認する必要があります。

次号は、この科学とベネフィットの距離を踏まえ、Longevityによって健康食品市場の捉え方がどのように変わるのかを考えます。

【参考情報】
・López-Otín C. et al., Hallmarks of aging: An expanding universe, Cell, 2023
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36599349/
・Christen S. et al., The differential impact of three different NAD+ boosters on circulatory NAD and microbial metabolism in humans, Nature Metabolism, 2026
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41540253/
・Belsky D.W. et al., DunedinPACE, a DNA methylation biomarker of the pace of aging, eLife, 2022
https://elifesciences.org/articles/73420

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