こんにちは、GNG武田です。
前号では、台湾の展示会で目にしたブランド付き原料について紹介し、最後に「AI時代に高まるブランド原料の価値」について触れました。今後、生活者が検索エンジンだけでなく、生成AIに製品や原料について質問する機会が増えていけば、健康食品の選ばれ方そのものが変わっていく可能性があります。
その変化が、すでに始まっていることを示す興味深い調査結果が発表されました。
日経クロストレンドとロイヤリティ マーケティングが、生成AIを週1回以上利用している20~50代の男女1,000人を対象に行った調査によると、過去3カ月に生成AIへ買い物について相談したことがある人は39.6%でした。20代では男女とも約半数に達しています。
さらに興味深いのは、AIが単なる「検索」の代わりとして使われているわけではないことです。
検索から「相談」へ
生成AIに買い物を相談する人は、「条件に合う候補を挙げてもらう」だけでなく、「商品比較に必要な条件を整理してもらう」「商品を比較してもらう」「口コミやレビューをまとめてもらう」といった使い方をしています。
つまり、
「○○について調べる」
という検索から、
「私の場合は、どれを選べばよいのか」
という相談へ、情報収集の方法が変わり始めています。
調査では、生成AIに相談する際、46.2%が予算、用途、好みなどの具体的な条件まで伝え、20.7%は家族構成や使用頻度などの生活背景まで伝えていました。
そして、AIに相談することで「検討にかける時間が短くなった」と感じた人は75.0%、「支払う金額に対して納得できる選択ができた」は66.6%、「迷い・不安が減り、気持ちが楽になった」は65.7%でした。
AIは情報を探す道具から、選択を支援する道具へと役割を広げつつあります。
食品は、すでにAIへの相談対象になっている
健康食品業界にとって見逃せない数字もあります。
生成AIに相談した買い物ジャンルの第1位は「食品・飲料(外食含む)」で33.3%でした。
現時点では、食品・飲料についてAIが役立った場面は「情報収集」が71.2%と高く、「比較検討」43.2%、「購入判断」28.8%となっています。まだAIが食品の購入を決めているわけではありません。しかし、少なくとも「何を選択肢に入れるのか」という購買行動の入口には、すでにAIが入り始めています。
健康食品やサプリメントでは、この変化はさらに重要な意味を持つのではないでしょうか。
たとえば、
「60代になったので、将来の健康のために何かサプリメントを摂りたい」
とAIに相談したとします。
AIは、目的を聞き、食生活や生活習慣を確認し、候補となる成分を挙げ、それぞれの特徴を比較することができます。
さらに生活者は、
「その成分には、どの程度の科学的根拠がありますか」
「私に本当に必要ですか」
「他の成分ではだめですか」
「食事から摂ることはできませんか」
「安全性に問題はありませんか」
「もっと安い選択肢はありませんか」
と、次々に質問することができます。
これまで専門知識がなければ難しかった情報収集や比較を、生活者自身がAIと対話しながら行えるようになってきました。
サプリメントを「選んでくれる」サービスからAIへ
健康食品業界では、以前から質問に答えると自分に合ったサプリメントを提案してくれるアプリやサービスが登場していました。
こうしたサービスでは、あらかじめ設定された質問や選択肢に回答し、その結果に基づいて商品が提案されます。
生成AIとの大きな違いは、対話を続けられることです。
「なぜ、この商品なのか」
「AとBなら、どちらがよいのか」
「デメリットはないのか」
「別の考え方はないのか」
と、納得できるまで質問できます。
消費者はAIが出した答えをそのまま受け入れる必要もありません。疑問があれば問い直し、条件を変えて比較することもできます。
AIが賢くなるだけではありません。
AIを使うことで、消費者自身の情報収集力、比較力、判断力が拡張されていくのです。
「世界一賢い消費者」の登場
マーケティングの世界では、生成AIによって消費者がかつてないほど多くの情報を収集し、比較できるようになることを、「世界一賢い消費者」の登場と表現する考え方があります。
もちろん、AIの回答が常に正しいわけではありません。誤った情報を提示することもありますし、情報源によって回答が左右されることもあります。
それでも、消費者が商品の広告やパッケージだけを見る時代と、AIを使って商品について調べ、比較し、疑問をぶつける時代とでは、企業と消費者の情報格差は大きく変わります。
健康食品では、特にその影響が大きいでしょう。
機能性、安全性、成分量、科学的根拠、品質、価格など、比較できる要素が多いからです。
Googleで1位でも、AIには選ばれない?
米国の健康食品業界でも、この変化への関心が高まっています。
WholeFoods Magazineは2026年4月、
「Why Your Supplement Brand Isn’t Showing Up in AI (Even If You Rank #1 on Google)
(Googleで1位でも、なぜあなたのサプリメントブランドはAIに出てこないのか)」という記事を掲載しました。
記事では、従来の検索エンジン対策と、AIが回答を生成する際に情報を取り上げる仕組みは同じではないと指摘しています。
これから企業は、Googleで検索されたときに上位に表示されるかだけでなく、生活者がAIに質問したときに、自社の商品や原料がどのように説明されるのかについても考える必要が出てきます。
しかし、これは単なる新しいSEO対策の話ではないと私は考えています。
AIに「見つけてもらう」だけでよいのか
AIに自社の商品を推薦してもらうためのテクニックを考えることはできます。
しかし、その前に考えなければならないことがあります。
生活者がAIに、
「この商品には、本当に科学的根拠がありますか」
「この会社は信頼できますか」
「競合商品と何が違いますか」
「この原料の安全性は確認されていますか」
と尋ねたとき、AIが参照できる情報を企業は社会に提供しているでしょうか。
そして、もっと重要なのは、
「世界一賢い消費者」がAIを使って自社の商品を徹底的に調べても、自信を持って選んでもらえる商品になっているでしょうか。
AI時代に問われるのは、AIに選ばれるための技術だけではありません。
品質、科学的根拠、安全性、情報開示、企業姿勢など、これまで企業が積み重ねてきたものが、生活者からこれまで以上に見えるようになることです。
前号で、ブランド付き原料について「企業が蓄積してきた品質、研究、信頼、情報を、一つの名称のもとに結び付け、市場から評価される状態をつくることに意味がある」とお伝えしました。
AI時代には、この「市場から評価される状態」の意味も変わってくるのかもしれません。
企業が伝えたい情報を一方的に届けるだけではなく、生活者がAIを使って調べ、比較し、問い直す。
そんな「世界一賢い消費者」と向き合う準備が、健康食品業界にも必要になり始めています。
参考資料
[1]日経クロストレンド「『AIに買い物相談する』4割、タイパ実感75% 50代は検索より重視」2026年7月31日(日本経済新)聞電子版再構成記事:2026年8月22日)
[2]Jane Phelps, “Why Your Supplement Brand Isn’t Showing Up in AI (Even If You Rank #1 on Google),” WholeFoods Magazine, April 28, 2026.
参考資料
[1]日経クロストレンド「『AIに買い物相談する』4割、タイパ実感75% 50代は検索より重視」
2026年7月31日(日本経済新)聞電子版再構成記事:2026年8月22日)
[2]Jane Phelps, “Why Your Supplement Brand Isn’t Showing Up in AI (Even If You Rank #1 on Google),” WholeFoods Magazine, April 28, 2026.
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■ トレンドではなく、構造で考える
GNGが発信するコンテンツは、単なる情報提供ではありません。
世界で起きている変化を読み解き、日本市場における意思決定の質を高めるための「思考基盤」です。
食品・サプリメント業界は今、制度・科学・市場・消費者のすべてが同時に変化する転換点にあります。
この環境において求められるのは、トレンドを追うことではなく、「構造を理解し、設計できる力」です。
GNGは、この課題に対して三つの視点から体系的にアプローチしています。
『The Global Nutrition Insight Letter』
『ヘルスベネフィット解体新書』
『トランスペアレンシーマーケティング』
これらは個別のコンテンツではなく、GNGの思考体系そのものです。
『The Global Nutrition Insight Letter』では「世界を構造化」します。
『ヘルスベネフィット解体新書』では「前提を問い直し」ます。
『トランスペアレンシーマーケティング』では「価値を実装」します。
これらは独立したものではなく、理解し、解体し、設計するという一連の思考プロセスです。
GNGは、情報を提供するのではなく、意思決定の質を高めるための「思考法」を提供しています。
そしてこれこそが、日本発“世界商品”を生み出すための出発点であると考えています。
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