今年は7月のBIO Asia–Taiwan、8月のHi Korea、9月のVitafoods Asiaと、アジアの展示会を続けて視察してきました。10月には米国ラスベガスで開催されるSupplySide Globalも視察する予定です。
海外の展示会を歩いていると、Longevity、Women’s Health、Gut Health、Beauty-from-Withinなど、世界で共通して使われている言葉を数多く目にします。こうした言葉を見るにつけ、世界には共通した「グローバルトレンド」があり、それをいち早く見つけることが海外市場を見る目的のように思えてきます。
しかし、長年にわたって海外の展示会や市場を見ていると、私はむしろ「グローバルトレンドなど存在しない」と考えるようになりました。もちろん、世界に共通する大きな潮流がないという意味ではありません。同じキーワードが使われていても、それが商品やサービスとして市場に現れる姿は、国や地域によってかなり違います。
海外市場を見る際には、共通する言葉を探すこと以上に、その違いがなぜ生まれているのかを見る必要があります。
展示会だけでは分からない
海外市場を知るうえで、展示会は非常に効率のよい場所です。
数百社、ときには千社を超える企業が一つの会場に集まり、新しい原料、技術、剤形、商品、サービスを提案しています。時間をかけて会場を歩いていると、以前は見なかった言葉が増えていたり、同じテーマを掲げる企業が急に増えていたりすることに気づきます。
ただし、展示会に並んでいるものは、基本的には企業が「これから市場に提案したいもの」です。
展示会で多く見かけたからといって、それがすでに消費者市場で大きなトレンドになっているとは限りません。
そこで私は、海外出張ではできるだけ現地の店舗も見るようにしています。スーパーマーケット、ドラッグストア、専門店などを歩き、展示会で見たテーマが実際の商品になっているのか、どのような価格で売られ、どのような言葉で生活者に伝えられているのかを確認します。
もう一つ欠かせないのが、現地の人から話を聞くことです。現地のパートナーや業界関係者と情報交換すると、展示会や店頭を見ているだけでは分からない背景が見えてきます。なぜその商品が増えているのか、消費者は何に反応しているのか、企業はどこにビジネスチャンスを感じているのか。展示会、店頭、現地の声を重ねることで、市場をより立体的に見ることができます。
継続して見ると「変化」が見えてくる
同じ市場を継続して見ることも大切です。単発の視察では「今年はこれが目立つ」としか分かりませんが、何年も同じ場所を見ていると、以前との違いが見えてきます。
例えば2年前、韓国の店舗を視察した際、ドリンク容器のキャップ部分にカプセルや錠剤を収納した「Overcap(オーバーキャップ)」という形状が気になりました。当時は韓国の商品として興味深く見ていましたが、今年のBIO Asia–Taiwanでは、同じような形状の製品が目立つようになっていました。
私はBIO Asia–Taiwanを3年続けて視察していますが、この形状がこれほど目についたのは今年が初めてです。
これだけで、韓国から台湾へトレンドが広がったと断定することはできません。しかし、2024年に韓国の店頭で気になったものが、2026年には台湾のB2B展示会でも目につくようになったという変化は、継続して複数の市場を見ていたからこそ気づくことができました。一つの商品を見ただけでは「面白い商品」で終わりますが、時間と地域をつないで見ると、市場の変化として捉えられるようになります。
韓国企業はなぜ目立ったのか
今年のHi Koreaでは、OEM企業が自社の開発力や提案力を強くアピールしていることも印象に残りました。リポソーム技術を使った商品も多く、ビタミンCだけでなく、コラーゲン、NMN、クルクミンなどさまざまな成分へ広がっていました。
ある出展者は、新しい機能性素材を次々に開発することは容易ではなく、臨床試験にも時間と費用がかかるため、既存成分にリポソームなどの技術を組み合わせて差別化する方が商品開発が早いと話していました。一方で、十分な技術的裏付けのない「リポソームもどき」も増えているとの指摘もありました。吸収性を変える技術であれば、安全性をどのように評価するのかという別の課題も生じます。
その翌週に訪れたVitafoods Asiaでは、中国企業の出展数が圧倒的に多い一方で、韓国企業が非常に目立っていました。ブースのテーマが明確で、人を引き付ける展示が多く、原料だけでなく最終製品でも韓国企業の存在感がありました。OEM・ODM企業も多く、これまであまり意識しなかった「CDMO Services」という言葉も目につきました。
韓国企業が目立ったのは、単に出展社数が多いからではなく、新しい技術、剤形、処方、商品コンセプトまで含めた「新しい提案」をしているからではないか、そんな仮説も浮かびます。OEM・ODM企業の役割も、依頼された商品を製造することから、差別化できる商品そのものを提案することへ広がっているように思いました。
品質の「見せ方」にも違いがある
Vitafoods Asiaでは、海外企業のブースに掲げられた多くの認証マークも気になりました。
GMP、HACCPなどの認証を前面に出す企業が多く、特にNSF InternationalのGMP認証は珍しいものではなく、国際的なB2B取引における共通言語のように見えました。SupplySide Globalでも以前からNSF Internationalの認証マークは数多く見られていました。
一方、韓国企業は、韓国政府の制度に基づくGMPマークを積極的に掲げています。それに対して、日本企業のブースでは、こうした品質保証の「見える化」が相対的に弱い印象を受けました。
これは、日本企業の品質が低いという話ではありません。高い品質を持っていることと、その品質を海外の企業が理解できる形で伝えることは別です。国際市場では、第三者認証や公的な認証制度が、企業を知らない相手にも品質管理の水準を短時間で伝える役割を果たしています。「日本品質」という言葉だけで、海外の取引先にどこまで伝わるのかを考える必要があります。
各国の制度が市場をつくる
海外の商品を見ていると、日本でも同じものが流行るのではないかと考えたくなります。しかし、ここで忘れてはいけないのが各国の法体系やレギュレーションです。
食品と医薬品をどのように区分するのか、どの原材料が使用できるのか、どのような機能を表示できるのか、どの程度の科学的根拠が必要なのか、安全性や品質をどのような仕組みで担保するのか。こうした制度は国によって異なります。同じ素材や技術であっても、制度というフィルターを通ることで、商品や表示の姿は変わります。
文化、食生活、流通、価格、消費者意識も市場を左右します。世界共通の大きな潮流があったとしても、それが各国で同じ商品、同じ表示、同じ売り方になるわけではありません。グローバルな潮流は、それぞれの市場で「翻訳」されていると考えた方が実態に近いでしょう。
海外で見たものを、そのまま持ち帰らない
それでは、海外市場を見ることを日本のビジネスにどう活かせばよいのでしょうか。
韓国でリポソームが増えているから、日本でもリポソーム商品を開発する。台湾でオーバーキャップ形状の製品が増えているから、日本でも同じ形状を採用する。海外でCDMOという言葉が増えているから、自社もCDMOを名乗る。このような使い方では、海外事例の後追いになってしまいます。
見るべきなのは、商品そのものよりも、その商品が生まれた背景です。
なぜ既存成分に新しい技術を組み合わせる企業が増えているのか。なぜ剤形そのものが差別化の手段になっているのか。なぜOEM・ODM企業が商品開発まで提案するようになっているのか。なぜ海外企業は認証マークをあれほど前面に出すのか。その背景にある市場の変化を読み取れば、日本で同じ商品を作らなくても、自社のビジネスに活かすことができます。
自社がすでに持っている素材に、新しい技術を組み合わせることはできないか。研究成果を生活者に分かる価値へ変換できないか。製造だけでなく商品開発まで支援できないか。自社が持っている品質を、海外の顧客にも理解できる形で示せているか。海外で見つけた変化を、このような問いに置き換えることで、初めて自社の事業につながります。
トレンドを探すより、変化を翻訳する
毎年、「今年のグローバルトレンド」「次に来る成分」といった情報が数多く発信されます。こうした情報は市場を見るための手掛かりとして有用ですが、それ自体が答えではありません。
展示会を歩き、店頭を見て、現地の人から話を聞く。同じ場所を継続して訪れ、以前との違いを見る。複数の国を比較し、その背景にある制度や市場構造まで考える。そうすると、共通するキーワードの裏側に、それぞれ異なる市場の動きが見えてきます。
海外で流行しているものを探して日本へ持ち帰るのではなく、海外で起きている変化の構造を読み、日本の市場環境や制度、自社の技術、顧客、事業に合わせて翻訳する。
グローバルトレンドを追いかけることよりも、世界で起きている変化が自社にとって何を意味するのかを考えることが、海外市場を見る本当の価値ではないでしょうか。
GNG研究会では11月に、今年1年間の海外視察を振り返る報告会を予定しています。
各国の展示会や店頭で見てきた変化を総括するとともに、年初に注目したNew Nutrition Businessの「10 Key Trends」を実際の市場と照らし合わせて振り返り、来年どのような動きに注目すべきかも皆さんと考えてみたいと思っています。
トレンドは、レポートやデータを読んで頭で理解することも必要ですが、現地を歩き、商品を手に取り、企業の人たちと話し、前年との違いに気づくことで初めて感じ取れるものもあります。
「トレンドは頭で理解するだけでなく、肌で感じるもの」。私たちが今年各地を歩いて感じた市場の変化を、少しでも皆さんと共有できればと思っています。
***********************************
■ トレンドではなく、構造で考える
GNGが発信するコンテンツは、単なる情報提供ではありません。
世界で起きている変化を読み解き、日本市場における意思決定の質を高めるための「思考基盤」です。
食品・サプリメント業界は今、制度・科学・市場・消費者のすべてが同時に変化する転換点にあります。
この環境において求められるのは、トレンドを追うことではなく、「構造を理解し、設計できる力」です。
GNGは、この課題に対して三つの視点から体系的にアプローチしています。
『The Global Nutrition Insight Letter』
『ヘルスベネフィット解体新書』
『トランスペアレンシーマーケティング』
これらは個別のコンテンツではなく、GNGの思考体系そのものです。
『The Global Nutrition Insight Letter』では「世界を構造化」します。
『ヘルスベネフィット解体新書』では「前提を問い直し」ます。
『トランスペアレンシーマーケティング』では「価値を実装」します。
これらは独立したものではなく、理解し、解体し、設計するという一連の思考プロセスです。
GNGは、情報を提供するのではなく、意思決定の質を高めるための「思考法」を提供しています。
そしてこれこそが、日本発“世界商品”を生み出すための出発点であると考えています。
<GNG研究会について>
GNG研究会では、過去十数年にわたるニューズレターのバックナンバーを会員ページにてすべて公開しています。
そして、例えば「免疫」、「プロテイン」、「乳酸菌」、「腸内細菌叢」など特定のキーワードで過去の記事を見出し検索できるので、トレンド把握に役立ちます。
GNGでは、国内および「海外のいま」をお届けできるよう全力で取り組んでおります。
https://global-nutrition.co.jp/gng-lab
皆様のウェルネスフードビジネスに少しでもお役に立てましたら幸いです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
無料メルマガに登録いただけると、更新をメールでお知らせします。
┗━━━━━━━━━━━━━━━┛