米国の豆乳市場と乳糖フリー乳の台頭|ウェルネスフード・ワールド第105回

こんにちは、GNGの和泉です。
9月のウェルネスフードワールドをお届けいたします。

皆さまもご存じの通り、近年、乳糖不耐症の消費者の増加や動物愛護、環境保護の観点から、植物由来ミルク(プラントミルク)の需要が増加しています。
NPO法人Good Food Instituteが発表したレポートでは、プラントミルクの年間成長率は動物性ミルクの2倍で、さらに、プラントベース食品市場の35%はプラントミルクが占めていると報告されています。

プラントミルク市場が最も発展している国のひとつは米国で、2021年の世界のプラントミルク市場シェアは北米が40%以上を占めているという統計も出ています。市場調査会社SPINSのデータによると、米国における2022年6月12日までの1年間のプラントミルク小売売上高は、前年比6.4%増の22億9,900万億ドルに達したそうです。さらに、5年前に米国プラントミルク市場に登場したオーツミルクの売上高は、2022年には50.52%増加し5億2,744万ドル、エンドウ豆ミルクの売上高も27.37%増の6,013万ドルとなっています。

現在、米国のプラントミルク市場の72%を占めているのはアーモンドミルクで、2位がオーツミルク、そして3位が豆乳です(IRI社データによる)。

■米国市場における豆乳の歴史

1970年代、豆乳が米国市場に登場してから1997年まで、豆乳は栄養価の高い常温保存可能飲料として位置付けられていました。Danone社のSilkブランドが、ミルクカートンに入った豆乳を乳製品の冷蔵コーナーで販売を開始したことで豆乳の価値に対する消費者の認知が高まり、豆乳市場は1999年以降、急激に成長していきました。

しかし2007年にアーモンドミルクが登場したことで、流れが変わりました。
カリフォルニアのアーモンド生産者グループBlue Diamondは、アーモンドミルク発売以前から、アーモンドの健康アドバンテージを示す研究、より便利な形で提供するための商品開発、アーモンドの健康ハロー効果を創り出すための大規模キャンペーン等に投資を行っており、瞬く間に消費者へ受け入れられました。
そして何より、アーモンドミルクは「豆乳よりも美味しい」プラントミルクとして認識されたため、豆乳はそのシェアを奪われ続けたのです。
2012年を境に王者の地位は逆転し、豆乳は2016年に17%のシェアを有していましたが、2021年には8%まで減少しています(IRI社のデータによる)。
2012年以降、市場シェア2位を占めていた豆乳は、2020年になって近年新たに登場したオーツミルクにシェアを奪われ、現在は3位となっています。

ただし、業界専門誌のNew Nutrition Business(NNB)は近年、プラントミルクは多くの原材料から作られており加工が多く、ナチュラルで加工度の低い商品を求める消費者の期待に応えられないという点で不利であることを指摘し続けています。(NNB2020年4月号、2021年10月号ほか参照)。

米国でプラントミルクを超える乳糖フリー乳

2021年、米国におけるアーモンドミルクの売上は、前年比で3,100万ドル減少しました。アーモンドミルクの売上が落ちたのはこれが初めてのことです。
一方のオーツミルクの売上は1.17億ドル増加しており、今後、オーツミルク躍進の可能性があります。しかしこれは、オーツミルクが他のプラントミルクより味が良く使用しやすいためであり、アーモンドミルクを含むプラントミルク市場でカニバリゼーションを引き起こしているのが実情です。

2019年、米国における1人当たりの年間消費支出額は、プラントミルクが1.06億ドルだったのに対し、動物性ミルクである乳糖フリー乳は1.49億ドルとなり、プラントミルクを上回りました。
乳糖フリー乳市場はまた、プラントミルクよりもプレミアム価格にもかかわらず、プラントミルク市場全体より300%の速さで成長しています。
乳糖フリー乳の代表的なブランドであるCoca-Cola社『Fairlife』は、2015年の発売から7年間にわたり2桁成長を続け、2021年には10億ドルの売上高を達成しました。同ブランドは米国の乳糖フリー乳市場総売上高を18億ドルに導いたと言われています。
このことから、プラントミルク購入者の多くが、牛乳を飲むと消化障害を起こす人々だったことが明確になりました。
乳糖フリー乳は味も良く、腸の健康に良いことに加え、米国人が好む高たんぱく質、より少ない糖質という優位性があります。さらに消費者が求める自然で短い成分リストを実現しているのです(通常のプラントミルクは10~20以上の原材料を使用しているのに対し、『Fairlife』は4種類のみ(限外ろ過乳、ラクターゼ酵素、ビタミン A パルミテート、ビタミン D3))。

米国では、乳糖不耐症の人が人口の35%以上に上るとみられ、彼らがより重要視するのは、「植物(プラント)」が持つハロー効果よりも、腸の健康であることに注目すべきだと思われます。

■日本のプラントミルク市場

一方の日本市場ですが、古くから大豆を利用してきたという文化的背景があります。
近年ではアーモンドミルクの成長が著しいものの、2020年時点の市場シェアは豆乳が約88%、アーモンドミルクが約12%で、圧倒的な豆乳大国です(日本豆乳協会、富士経済、アーモンドミルク研究会のデータを基にグローバルニュートリショングループが分析)。
日本豆乳協会によると、2021年の豆乳総生産量は42.4万klで、2020年の43万klと比較して若干減少していますが、これはコロナ禍におけるメーカー各社の販促活動の制約や外食需要の減少などの影響が出たと考えられます。
さらに、無調整豆乳は飲料としてだけでなく料理の素材として家庭で使用されるようになったことで生産量が大きく伸び、今後のさらなる市場拡大が見込まれています。


前述の通り、米国のプラントミルク市場で豆乳のシェアが減少している要因の一つとして、味の問題が挙げられます。
また、米国では近年、大豆に含まれるエストロゲンとフィチン酸が、カルシウム、鉄、亜鉛、マグネシウムなどの必須ミネラルの吸収を低下させる物質であるとされ、一部の消費者からは避けられるようになりました。
さらに米国では成人の10人に1人が何らかの食物アレルギーと言われており、近年では大豆アレルギーも注目されています。これも豆乳の売上低下につながったと考えられます。
そして、米国で販売されている豆乳の多くは調整豆乳で、様々な栄養素が添加されているため、「加工が多い食品」とみなされている可能性が高いのです。

大豆に馴染みの深い日本人にとって、豆乳は自然に受け入れられるものであり、さらに無調整豆乳の原材料は大豆のみで、ナチュラルで低加工といえます。
海外でトレンドとなっているからと言って、そのまま真似をしてもうまくいきません。海外と日本との共通点、相違点を十分検討してトレンドを取り入れることが、ビジネスの成功における秘訣であると考えています。

皆様のビジネスに少しでもお役に立てましたら幸甚です。

(株)グローバルニュートリショングループ 和泉 美弥子

<GNG研究会について>

GNG研究会では、過去十数年にわたるニューズレターのバックナンバーを会員ページにてすべて公開しています。

そして、例えば「免疫」、「プロテイン」、「乳酸菌」、「腸内細菌叢」など特定のキーワードで過去の記事を見出し検索できるので、トレンド把握に役立ちます。

皆様のウェルネスフードビジネスに少しでもお役に立てましたら幸いです。

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