こんにちは、GNG武田です。
今号では朝食用シリアルの事例がいくつか取り上げられていますが、考えさせられることが多々ありました。
先月末のグローバルニュースにもUPF(超加工食品)の記事がありましたが、「論説2:UPF製品を改良する前に」は、示唆に富む内容です。
2015年、General Millsは消費者の健康志向の高まりを受けて、Trixを含む複数のシリアル製品から人工着色料(赤色40号、黄色6号など)を除去する方針を発表しました (「人工」という文言の使い方は要注意ですが、ここではNNBに合わせて「人工」という言葉をそのまま使います)。これにより、2016年初頭には、果物や野菜の濃縮エキス、香辛料抽出物(ターメリックやアナトーなど)を使用した「ナチュラルカラー」のTrixが市場に登場しました。
当初、この変更は一部の消費者から歓迎され、2016年初頭には売上が前年比で6%増加するなど、好調なスタートを切りました。しかし、従来の鮮やかな色合いや風味を好む多くの消費者からは、「色が地味になった」「味が変わった」といった否定的な意見が寄せられました。特に、青や緑の色を自然由来の素材で再現することが難しく、製品の外観や味に影響を及ぼしたことが指摘されました。
このような消費者からのフィードバックを受け、General Millsは2017年9月に従来の人工着色料を使用した「クラシックTrix」を再発売することを発表しました。これにより、ナチュラルカラー版とクラシック版の両方が市場に並ぶこととなり、消費者の多様な嗜好に対応する形となりました。
この一連の経緯は、消費者の健康志向と従来の味や見た目への愛着との間で、企業がバランスを取る難しさを示しています。また、自然由来の着色料の使用には、コストや安定性、色の再現性といった課題が伴うことも明らかになりました。
その後、General Mills全体の売上は回復傾向を示しました。2018年度の通期では、総売上が1%増の157億ドルとなり、特に第4四半期には売上が前年同期比2%増の38.9億ドルを記録しました。
Trix単体の売上データは公表されていませんが、2019年にはGeneral Millsの米国シリアル部門の小売売上が2%増加しており、「クラッシック」版Trixの再導入がこの成長に寄与した可能性があります 。
このように、Trixの「クラシック」版の再導入は、General Millsのシリアル部門の売上回復に貢献したと考えられます。この事例は、消費者の嗜好や期待に応える製品戦略の重要性を示しています。
シリアル市場全体の傾向
一方、近年の朝食用シリアル市場は以下のような傾向を示しています:
・消費量の減少:アメリカでは、2008年の年間消費量が210万トンだったのに対し、2023年には160万 トンに減少しました。
・価格上昇の影響:原材料費や物流コストの増加により、シリアルの価格が上昇し、消費者の購買意欲に影響を与えています。
・競合の増加:スムージーやアボカドトーストなど、他の朝食メニューの人気が高まり、シリアルの市場シェアが減少しています。
朝食用シリアルの大手ブランドは
・低糖質
・減塩
・食物繊維豊富
・全粒穀物
を強調してきましたが、業績は明るくないようです。
そしてこの朝食用シリアルから朝食マーケットを奪っているのが「高たんぱく質」を訴求したヨーグルトや卵ということのようです。
シリアル業界にも挑戦ブランドも現れているようですが、訴求は「高たんぱく質」が多いようです。
UPFへの対応についての私の考えは、先月のグローバルニュース配信時に述べたとおりですが、消費者の「建前」と「本音」とうまく向き合う必要もありそうです。
Trixの事例は良い教訓となりそうです。
武田 猛
この記事について
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この記事では、その会員向けマガジンの一部を抜粋してご紹介させていただきます。
■NNB(New Nutrition Business)4月号 トピックス
今回、会員向けにお届けしたNNB日本語要約版のタイトルは以下の通りです:
●卵と挑戦ブランドは時代遅れのシリアルブランドの運命を決定づけていくのか?
●UPF製品を改良する前に一考を
●オートミルクが理想的な市場規模に成長する日は来るか?
●損失の増大により人員を削減する代替プロテインビジネス
●チャレンジャーブランドは「役員会で却下されることをする」ことで成功
●シードオイルを使わない高級リアルフードブランドの売上が急上昇
●ノスタルジアの力を利用するグルテンフリーブランド
●オーガニックのポップコーン&スナック菓子メーカー、ベターフォーユー製品が好調
●ベーカリー食品に革命を起こすかもしれない新しい高食物繊維の小麦
●カロリーカットに重点をおくことはより多くの消費者を乳糖フリー乳に引き付けるのか?
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[今号のハイライト]
UPF製品を改良する前に一考を
「UPF」(超加工食品)の数を減らそうという消費者や規制当局の関心の高まりにどう対応するかは
現在、多くの企業の戦略立案において大きな位置を占めている。メディアや一部の大学の研究者
は、食品業界を攻撃する新たな手段としてUPFを捉えている。彼らは、UPF摂取とさまざまな健康
状態との直接的な関連性を、時には証拠を用いて、また時には証拠を用いずに主張している。こう
した攻撃は、UPFには統一された定義が存在しないという事実(実際には、潜在的に8つの定義が
ある)を見落としており、代わりにブラジルのSao Paolo大学で作成されたNOVA分類に基づく定義
に飛び付いている。
(会員向けニューズレター「NNBマンスリーレポート2025年4月号」日本語要約版より抜粋)
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