こんにちは、GNGの武田です。
欧米発の質の高い情報でお薦めが、英国を拠点としグローバルにニュートリションビジネスの調査、分析を行っているThe Center For Foods & Health Studies社が発行している業界専門誌”New Nutrition Business”(以下、NNBマガジン)です。
NNBマガジンは、世界のニュートリションビジネスを分析・洞察し、実用的な情報を世界へ発信しています。
1995年に創刊され、現在42カ国、1,000社以上のニュートリション産業のエグゼクティブが読んでいる、クオリティの高い雑誌です。
読者の約75%が、経営トップ(CEO・社長・副社長・取締役)となっており、企業の戦略立案時などに使用されています。
NNB10キートレンドとは
NNBマガジンは、2005年から毎年、ニュートリションビジネスのトレンドとして”10 Key Trends in Food, Nutrition & health”(以下、10キートレンド)というレポートを発刊しています。
10キートレンドは、サイエンスから消費者まで、あらゆる情報を分析し導き出された重要なトレンドで、企業がイノベーションプラン、戦略を立てる際に有効となる長期的視点に立った強力なトレンドに注目したものです。
そして今月5日、”10 Key Trends in Food, Nutrition and Health 2025”が発刊されました。
146ページという、昨年の2024年版を更に上回るボリュームとなっています。
現在、日本語要約版の作成に鋭意取り組んでいます。
ここで、10キートレンド2024年版を簡単に振り返ってみます。
レポートは、10のキートレンド(成長トレンド)とそれら全体に深く影響を与える5つのメガトレンドから構成されています。
10キートレンドで2024年を振り返る
”10 Key Trends in Food, Nutrition and Health 2024”
Mega Trend 1: Weight wellness & metabolic health:ウエイトウェルネス&メタボリックヘルス
Mega Trend 2: Fragmentation of health beliefs:健康に関する信念の細分化
Mega Trend 3: Naturally functional:天然の機能性
Mega Trend 4: Snackification at the heart of strategy:スナック化は戦略の基軸
Mega Trend 5: Sustainability:サステナビリティ
Key Trend 1: Digestive wellness diversifies:多様化する腸のウェルネス
Key Trend 2: Carbs – better and fewer:炭水化物:よりよく、より少なく
Key Trend 3: Plants made convenient:植物を便利に
Key Trend 4: Animal protein powers on:スイッチが入った動物性プロテイン
Key Trend 5: Plant protein:植物性プロテイン
Key Trend 6: Emergent blood sugar-friendly:血糖値フレンドリーの台頭
Key Trend 7: Redefining Fat:脂肪の再定義
Key Trend 8: Mood & mind:ムード&マインド
Key Trend 9: Emergent hormonal health:ホルモンヘルスの台頭
Key Trend 10: Real food & UPF Challenge:リアルフード&超加工食品の挑戦
メガトレンドを除く、10のキートレンドのポイントは以下の通りです。
Key Trend 1:多様化する腸のウェルネス
●消費者の強いニーズ:人口の3分の1は常に消化障害を有している
●混み合った市場
● 消化+α:「プロバイオティクス」や「高ファイバー」などのメッセージは一般的であり、差別化ポイントではなくなった。
●最大の「その先」のチャンス:腸脳相関が台頭しムード、マインドを訴求。実感できるベネフィットを提供できる製品が成功するであろう。
Key Trend 2:炭水化物:より良く、より少なく
● イノベーションがブランドの存在感を維持する:消費者の多様で変化する考え方に対応できるよう、自社製品を改革することに長けている。
● 罪悪感なく食べられる:自社製品に健康ハロー効果を加え、炭水化物を楽しむ許可を与えることは、消費者に歓迎されるだろう。
● 血糖コントロール:良い炭水化物、たんぱく質、脂質
● ウエイトウェルネス、腸のウェルネスなどが消費者の選択を促す
● 近年、炭水化物を減らす傾向は鈍化し、需要は安定
Key Trend 3:植物を便利に
● 長期的な成長機会: 消費者は、特に野菜など、自然と健康を訴求する植物をもっと食べたいと思っており、それをより便利にするNPDは成功への道である。
● 幅広いアピール: ほとんどの人が雑食であり、より便利な野菜を望んでいる。
● 食の探求者: NPDチームは、新しい体験を求める多くの消費者にアピールする、興味深い風味の製品を生み出すことができる。
●ボタニカル(ハーブおよびスパイス原料)は、静かに、そして着実にビジネスチャンスとして成長している: その多くが、科学的根拠に基づく効能と、強力な健康効果を併せ持つ。
Key Trend 4:スイッチが入った動物性プロテイン
● 動物性プロテインに対する需要は力強く拡大している:これは特に乳製品に当てはまる。
● 強力なサステナビリティのポジショニング:「グラスフェッド」といったメッセージは、消費者に「楽しみの許容」を与えている。
●利便性の成功: チーズのスナッキング・ブランドの成長や肉スナックの売上急増に見られるように、便利な形の動物性タンパク質は勝利の方程式である。
●雑食性の魅力: 90%の消費者にとって、動物性プロテインと植物性プロテインの「どちらか一方」を選択するのではなく、食事の機会や個人の健康上の信念に応じて、両方を食べている。
Key Trend 5:植物性プロテイン
● 消費者の強い支持: 人々は、ナッツや豆類などの健康的なイメージやポジティブな背景を好む。消費者は、ナッツ類や豆類を丸ごと「本物」の形で食べることを最も好む。課題は、植物性プロテインを含むパッケージ食品がしばしば要求する長い成分リストである。
● 人々は、おいしくて便利な形の植物性タンパク質を求めている。ベーカリー&スナックバーのNPDは、これをうまく実現している。
● 楽しみの許容は成功の原動力である。肉の代替品や乳製品の代替品では、技術的・味覚的な課題があり、多くのブランドが失敗している。今後5年間はニッチにとどまるだろう。
Key Trend 6:血糖値フレンドリーの台頭
● 健康志向の消費者は、ソーシャル・メディアのインフルエンサーが発信する、血糖値の上昇を管理することでメタボリックヘルス、ホルモンヘルス、ムード&マインドの健康に役立つことを明らかにする新たな科学に注目している。
● 近年のケトや低炭水化物のトレンドは、多くの消費者にこのメッセージを受け入れさせ、タンパク質の受け入れや、脂肪への恐怖が薄れている消費者もいる。
●血糖値フレンドリーなポジショニングは、先駆的なブランドにとってすでに成功の原動力となっている。
Key Trend 7:脂肪の再定義
● 脂肪と健康に関する科学が徐々に進化し、脂肪、特に飽和脂肪を偏狭なものから、食生活の一部として許容されるものへと変えつつある。
● 「血糖値にやさしい」「メタボリック・ヘルス」といった新たなトレンドは、消費者(特に若い消費者)が高脂肪製品を受け入れることによって可能になる。
●アボカド・オイルのような植物性脂肪は健康的なイメージを持っているが、オメガ6を多く含む「種子油」はニッチな消費者に敬遠されつつあり、これがブランドや外食産業に影響を与え始めている。
Key Trend 8:ムード&マインド
●新しい道: 消費者の関心が高いこの分野で、ブランドは苦戦を強いられてきたが、新たな道が生まれつつある。
● プロバイオティクスは、ムード&マインドとうまく結びつける方法を見つけた: 傑出した例はヤクルト1000で、消化器系のウェルネス、ストレス、睡眠に関連している。
● 新たなつながり: 新たな科学は、ムード&マインド、メタボリックヘルス、血糖値フレンドリー、ウエイトウェルネスを結びつけている。ニッチな消費者がこのようなベネフィットを受け入れている。
Key Trend 9:ホルモンヘルスの台頭
● 十分なサービスを受けていないグループ: 女性ホルモンの健康問題は、ソーシャルメディアや他のインフルエンサー(多くの場合、医学や科学の背景を持つ)から注目され、ホルモンの課題を管理するための戦略が脚光を浴び、女性の経験を検証している。これは、人口の半分に関連する強いニーズの状態です。
● 粉末やサプリメントは、この新たなニーズをいち早く認識してきた: 一握りの先駆的な食品ブランドも、今のところスナックバーでこのニーズに取り組んでいる。
Key Trend 10:リアルフード&超加工食品の挑戦
● リアルフード:加工度の少ない、よりシンプルな原材料を使用した、より良い食品を選ぶという前向きな姿勢である。超加工食品(UPF)は避けるべきものである。
● UPF: 定義も規制も(まだ)存在しないが、学者やインフルエンサーがこのトピックを急速に消費者の注目を集めつつある。「クリーン・ラベル」のように、リアルフードは企業の戦略に組み込まれ、やがては必需品となるだろう。
● 健康に積極的な消費者は、代用肉のような一部のカテゴリーに見られる高度に加工された性質を拒絶する。消費者の関心の振り子は、より伝統的な「本物の」食品へと戻りつつあるようだ。
今年1年を振り返ってみて、いかがでしょうか?
そして、”10 Key Trends in Food, Nutrition and Health 2025”の内容は、以下の通りです。
Mega Trend 1: Weight wellness & metabolic health
Mega Trend 2: Fragmentation of health beliefs
Mega Trend 3: Naturally functional
Mega Trend 4: Snackification at the heart of strategy
Mega Trend 5: Sustainability
Key Trend 1: Animal protein powers on
Key Trend 2: Mood & mind
Key Trend 3: Digestive wellness diversifies
Key Trend 4: Carbs – better and fewer
Key Trend 5: Energy 2.0
Key Trend 6: Rethinking fat
Key Trend 7: Real food
Key Trend 8: Emergent blood sugar-friendly
Key Trend 9: Plant protein
Key Trend 10: Plants made convenient
一見すると、トレンドの顔触れは大きく変わっていませんが(トレンドですので、ころころ変わっては困ります)、昨年と変わった点は「Key Trend 5: Energy 2.0」が再び入ったことです。
プロテインビジネスの戦略と10キートレンドの活用法
しかし、その背景には大きな動きが見られます。
動物性プロテインが、最も重要な成長トレンドとしてKey Trend 1:に取り上げられたことは、大きな変化です。
動物性プロテインの需要は依然として強く、多くの代替プロテイン企業が直面している技術的・経済的課題(多くの失敗や、さらに多くの企業が損失を抱えていること)を考えると、今後5年(さらには次の10年間)で「プロテインの転換」は起こらないであろうと予測しています。
多くの消費者が植物由来を優先している一方で、食品や健康に関する消費者の信念が多様であるため、栄養と健康のために動物性プロテインを受け入れている人々も同じくらいいるのが現状です。
また、多くの人々が、現実的な雑食の食生活の一部として、動物性プロテインを引き続き楽しんでいます。
これは動物性プロテインか植物性プロテインかを選ぶ「どちらか一方」の選択ではありません。
米国Whole Foods Marketは、毎年、消費者行動の変化を予測しています。
2025年のトップ10の変化の1つが「Protein Power Up」と言われています。
Whole Foodsは次のように述べています:
「消費者は、従来のプロテインパウダーやバーを超えて、食事の時間や『ホールフード』を使ったスナッキングを通じて、プロテイン摂取を増やすことを求めています。」
「カッテージチーズを取り入れたレシピが、ホールフード由来のプロテインを求める消費者の意欲を引き起こし、消費者が動物性プロテインを優先するようになったのかもしれません。」
消費者が最も重視するのは、優れた味と食感、親しみやすい食品、ナチュラルで健康的で、食生活に取り入れやすく、その価格に見合う価値があることです。
動物性プロテインはこれらすべての点で評価が高く、栄養的な価値もますます認識されています。
代替プロテインのバブルが膨らみ、その後崩壊したこと、そして伝統的なたんぱく質の人気が再び高まっていることは、トレンドの運命を決定するのはコンサルティング会社でも大学の学者でもメディアでもなく、消費者自身であることを改めて示しています。
代替たんぱく質への「避けられないプロテインの転換」というアイデアはこれらのグループから生まれましたが、その熱意は消費者の大多数と共有されていませんでした。
プロテインビジネスの戦略は短期的視点ではなく、長期的な視点に立って立案しなければ成功が難しい状況です。
動物性か植物性か、発酵か培養か、或いは昆虫か、という選択ではなく、消費者意向や経済状況、技術や科学、規制など複数の状況を俯瞰して、時間軸を意識しながらビジネスを設計することが求められていると思います。
情報には、「フロー情報」と「ストック情報」があります。
NNB10キートレンドを、最新のものだけを読めばそれは「フロー情報」として活用できます。
一方、10キートレンドを、過去から最新のものまでをテーマに沿って読み込むことで「ストック情報」として活用できます。
今、プロテインビジネスを検討するには「ストック情報」が必要だと思います。
NNB10キートレンドを過去に遡って分析し、その上で最新の2025年版を読むことは、中長期的な戦略を立案する上でとても有意義だと思います。
(株)グローバルニュートリショングループ 武田 猛
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