こんにちは、GNG武田です。
今号のグローバルニュースではPUFAに関する新しい研究報告の記事が2本あります。
そのうちの1つ、「フィッシュオイルは脂ののった魚を摂取するより心臓保護効果が高い可能性」という記事がとても興味深かったです。
この記事は、先月、BMJに掲載された” High dose fish oil supplements are more effective than oily fish in altering the number and function of extracellular vesicles in healthy human subjects: A randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel trial”という論文の内容を紹介しています。
早速論文を読んでみました。
この論文の要約は以下の通りです。
【研究デザイン】
この研究は 無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験(RCT) によって行われました。対象者は健康な成人42名で、以下の3群にランダムに割り付けられ、12週間の介入が行われました:
1. FOグループ(Fish Oil Supplement)
・ 高用量のフィッシュオイルサプリメント(DHA+EPA 合計:3.2g/日)
・ プラセボ(白身魚ベースの食事)
2. OFグループ(Oily Fish Diet)
・ 脂性魚(DHA+EPA 合計:2.0g/日)を食事から摂取
・プラセボサプリメント(トウモロコシ油)
3. Controlグループ(対照)
・ 白身魚の食事
・ プラセボサプリメント
いずれの群も、ベースラインおよび12週目に血液検体を採取し、血中脂肪酸組成、循環系細胞外小胞(EV)の数と起源(血小板由来、内皮細胞由来、単球由来など)、およびEVによるトロンビン生成能(血栓形成のマーカー)を測定しました。
【主な結果】
血中脂肪酸プロファイル
• FOグループでは、赤血球膜中のDHAおよびEPAレベルが有意に上昇。
• OFグループでも上昇は見られたが、FOグループの方が有意に高かった。
• コントロール群では変化なし。
細胞外小胞(EV)の数と起源
• FOグループでは、血小板由来EVと内皮細胞由来EVの数が有意に減少。
• OFグループおよびコントロール群では有意な変化は観察されなかった。
EVのトロンビン生成能
• FOグループでは、EVによるトロンビン生成速度(最大速度、総トロンビン量)が有意に低下。
• OFグループおよびコントロール群では変化なし。
【考察】
この研究結果は、高用量のフィッシュオイルサプリメントが脂性魚の摂取よりも、血中EVの数およびその血栓形成能に対してより強い抑制効果を持つことを示唆しています。特に、血小板や内皮由来のEVの減少およびトロンビン生成の抑制は、心血管イベントのリスク低下に関与する可能性があると考えられます。
一方で、脂性魚を食事から摂取すること自体にも血中脂肪酸プロファイルの改善という点で一定の効果はあるものの、EVに対する機能的な変化は限定的でした。この理由としては、魚食ではDHA+EPAの摂取量がサプリメントよりも少ないこと、また調理方法や吸収性の違いが考えられます。
【結論】
フィッシュオイルサプリメント(高用量)は、脂性魚の食事摂取よりも、細胞外小胞の数および血栓形成能に与える影響が大きく、より強力な抗血栓・抗炎症作用を持つ可能性があると考えられます。本研究は、n-3 PUFAの摂取手段がその生理機能に与える影響の違いを明確にした初めての臨床試験の一つとして位置づけられます。
サプリメントに使用されているフィッシュオイルの魚種は主にエンガワイワシ(Engraulis ringens, 通称:アンチョビ)、イワシ類(Sardinops spp.)およびマグロ油(Tuna oil)などを含むものでした。
商品名やメーカーは伏せられていますが、天然由来の濃縮フィッシュオイルが使用されており、GMP準拠で製造されたことが明記されています。
一般的な市販の高濃度フィッシュオイルサプリメントと同様の原料構成が想定されます。
サプリメントに含まれる脂肪酸の組成は以下の通りでした。
・DHA(ドコサヘキサエン酸): 約55%
・EPA(エイコサペンタエン酸): 約30%
・その他の脂肪酸(例:DPAなど): 約15%
本研究でのDHA:EPAの比率は約1.8:1という、DHAが豊富な構成です。
論文内では、DHAとEPAの比率が生理的効果に与える可能性についても触れられています。特に以下の点が強調されています:
• DHAは細胞膜の流動性やシグナル伝達に重要であり、EVの形成や膜構造に直接影響する可能性がある。
• 一方、EPAは抗炎症作用がより顕著であり、炎症性サイトカインの抑制に寄与するとされる。
• 本研究で観察されたEVの数とトロンビン生成能の減少が、DHA優位の組成による可能性も否定できない。
また、研究者は「フィッシュオイルの用量だけでなく、脂肪酸の質的な組成(特にDHAとEPAの比率)も機能的効果に大きな影響を与える可能性がある」と記述しており、将来的な研究では比率の違いによる比較試験の必要性を示唆しています。
一方、論文によれば、介入に使用された脂性魚(Oily Fish)は主に以下の2種類です:
• サバ(Mackerel)
• サーモン(Salmon)
これらは英国の食習慣において一般的な脂性魚であり、DHAおよびEPAを多く含むことで知られています。調理方法はオーブンベイクやグリル調理とされ、参加者にはレシピと魚の量が週ごとに提供されました。
脂性魚群(Oily Fish Group)の摂取量(週3回)を、研究チームは以下のように推定しています:
• DHA:1.2g/日(平均)
• EPA:0.8g/日(平均)
• 合計で DHA+EPA:2.0g/日
これは、サプリメント群(DHA+EPA 合計3.2g/日)と比べてやや少なめのn-3 PUFA摂取量です。
DHAとEPAの比率は、DHA:EPA ≒ 3:2(=1.5:1)程度と見積もられます。
これは使用された魚の脂肪酸組成によるもので、一般的に:
• サバはEPAがやや多く(DHA:EPA ≒ 1.5–2:1)、
• サーモンはDHAがやや多いか同程度(DHA:EPA ≒ 1:1 〜 1.2:1)です。
この論文から言える主なことは、次の通りです。
フィッシュオイルサプリメント(高用量)は、脂性魚の摂取よりも、循環中の細胞外小胞(EV)の数と機能(特に血栓形成能)をより有意に改善することが示されました。
EVの活性低下(数の減少やトロンビン生成の低下)は、血栓リスクの軽減=心血管疾患予防効果を示唆するマーカーであり、この観点から見ると、
サプリメントの方が魚を食べるより、心疾患リスクの抑制に有効である可能性が高い
(少なくとも、EVという指標においては)
という結論が導き出せます。
ただし、補足として注意したいポイントがあります。
• サプリメントがすべての面で優れているとは限らない:脂性魚にはタンパク質、ビタミンD、セレンなど他の有用栄養素も豊富で、これらの複合的効果はこの研究では評価されていません。
• 介入期間は12週間:心血管イベント(発症)の長期的リスク低下までを直接評価したわけではないので、「サプリメントを飲めば発症を防げる」とまで断言はできません。
• 摂取量が違う:サプリメント群はDHA+EPAを1日3.2gとかなり高用量に設定しており、日常的な脂性魚摂取よりもn-3 PUFAの摂取量が多いという点も、効果の差に影響している可能性があります。
n数も多くなく、たった1報の論文ですが、とても面白い試みだと思います。
結論として現実的な示唆は、
「魚をあまり食べない人、食習慣が安定しない人にとって、信頼できる高品質なフィッシュオイルサプリメントを摂取することは、血栓形成リスクを抑え、心血管の健康維持に有効な選択肢となりうる。」
ということだと思います。
魚好きで、1日1食は魚を食べることを心掛けていつつ、DHA/EPAサプリメントも摂取している武田としては、次のように考えます。
魚にはサプリメントには含まれていない栄養成分があります。
・ 高品質なたんぱく質
・ビタミンD
・ビタミンB群(特にB12)
・セレン
・アスタキサンチン(特にサーモン)
つまり、
・フィッシュオイルサプリメントはDHA/EPAをピンポイントで補える「機能性食品」
・魚は、全体として栄養がバランスよく摂れる優秀な「リアルフード」
という風に、どちらが優れているというよりも、目的に応じて使い分けるのがベストな戦略
だと思います。
たとえば、
• 普段の食事で魚をよく食べる → サプリは必須ではないかもしれない
• 食が不規則・魚が苦手・健康上のリスク因子がある → 高濃度のサプリメントが有効
という使い分けです。
私は、日ごろからオメガ6の摂取量が少なくないことを自覚していますので、魚を食べ、フィッシュオイルサプリメントも摂取する習慣を、これからも続けようと思います。
武田 猛
この記事について
GNGでは、会員向けに世界各国の健康・食・栄養に関するニュースをセレクトし、日本語に要約したものを月に2回、ニューズレター「GNGグローバルニュース」として配信しています。

この記事では、その会員向けニューズレターの一部を抜粋してご紹介させていただきます。
……グローバルニュートリション研究会 会員企業様は、会員サイトにて、すべての記事をお読みいただけます。
■GNGグローバルニュース 2025年4月9日号 トピックス
Market News
●FOPの栄養表示だけでは消費者の購買意欲をそぐ可能性:研究
●乳代替品の売上は下降、従来の乳製品は上昇傾向を見せる
Products & technology News
●Rviv Global社 、遺伝子プロファイルに基づいたパーソナライズドヘルスシステムを提供
●Vivici社、「Vivitein BL」で米国のGRASステイタスを獲得
●アジア人にとっての最適な栄養を探る:AMILI社、A*STAR
Science News
●若年成人の肥満リスクは小児期のLA、ALAの濃度次第
●フィッシュオイルは脂ののった魚を摂取するより心臓保護効果が高い可能性
Regulatory News
●サプリメント、食品・飲料に対する集団訴訟が急増
●Nutriスコアシステムの問題点を専門家が指摘
●新たなカフェイン規制を提案:オーストラリア・ニュージーランド
[今号のハイライト]フィッシュオイルは脂ののった魚を摂取するより心臓保護効果が高い可能性、ほか|GNGグローバルニュース2025年4月9日号
[2025/3/25][nutraingredients.com]
フィッシュオイルは脂ののった魚を摂取するより心臓保護の効果が高い可能性が、英国の研究で示唆された。
フィッシュオイルに豊富に含まれるn-3多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)は心血管系疾患の予防に関連することはこれまでの研究で指摘されてきたが、それはすでに心臓に症状を持つ患者に対してであり、健康な人での有効性は確立していない。
University of Reading、Liverpool John Moores Universityなどの研究者チームは、n-3 PUFAの心臓への有効性における潜在的なメカニズムの検証を行う上で、細胞外小胞(EV)に注目した。EVは膜で囲まれた微小物で細胞から放出され、心血管系疾患の有望なバイオマーカーという考えが浮上してきている。だが、n-3 PUFAがEVに及ぼす影響について探った研究は殆どなく、脂ののった魚の摂取がEVの数や機能にどんな影響を与えるかに関する情報も無い状態だった。
研究チームは、40歳以上の健康な被験者42人を対象に、フィッシュオイルサプリメント+ホワイトフィッシュ料理、プラセボサプリメント+脂ののった魚料理、プラセボ+ホワイトフィッシュの群に無作為的に割り付けた。介入期間は12週間で、被験者のEVの数と構成、凝血活性を評価したところ、フィッシュオイルを摂取した群では、循環するEVの数が有意に減少したことが分かった。脂ののった魚とホワイトフィッシュを摂取した群ではそれが見られなかった。また、フィッシュオイル群の血栓形成率も下がったが、これは、望ましくない血栓形成リスクを低減するフィッシュオイルの作用が働いたものとみられる。フィッシュオイル群と脂ののった魚群ではEPAおよびDHAの割合を増やしはしたが、EVの数や血栓形成率を変化させたのは、EPA濃度が高いフィッシュオイルのみだった。
したがって、フィッシュオイル群の有効性を導いたのは、DHAではなくEPAだと言えそうだ。研究者は、はっきりした効果を得るには、フィッシュオイルを1g/日補給することを勧めるとした。今後の研究について「並行デザインよりクロスオーバーの方がより正確に検証できるかもしれない」と述べている。本研究はThe British Journal of Nutritionに掲載された。
(会員向けニューズレター「GNGグローバルニュース2025年4月9日号」より抜粋)
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