こんにちは、GNGの寺門です。
8月のウェルネスフードワールドをお届けいたします。
気候変動や環境劣化、貧困や不平等など、私たちが直面する世界的な諸課題解決のため、2030年までに達成するとして掲げられた「持続可能な開発目標」、SDGs。まだその言葉に馴染みのなかった数年前から一転、今では多くの企業が事業戦略そのものとしてとらえ、その取り組みに注力しています。その中の一つとして注目されているのが「アップサイクル」です。今回は、特に進化している食から食へのアップサイクルについて、取り組んでいる海外スタートアップ企業をごく一部ですがご紹介したいと思います。
■アップサイクル食品協会(UFA)
アップサイクル食品の定義は、「本来であれば人間の消費にまわらない原材料を使い、検証可能なサプライチェーンにおいて調達し生産された、環境に良い影響を与えるもの」とされています。これは、2020年に米国のアップサイクル食品協会(UFA)の調整の下、ハーバード大学やドレクセル大学、世界自然保護基金(WWF)、自然資源防衛協議会(NRDC)などの専門家チームによって発表されました。
市場調査会社のFuture Market Insight社によると、世界のアップサイクル製品市場は現在$52,900M(約7.1兆円)規模、2032年までには$83,200M(約11.2兆円)(CAGR: 4.6%)に成長すると予測されています。市場の勢いが増してきた2019年に設立された業界団体がUFAです。米国企業を中心に70社が参加し、アップサイクル食品市場を成長させフードロス削減をすることを目指しています。2021年、同協会はアップサイクル食材および製品に対する認証プログラムを開始し、世界で初めて第三者認証を受けたプログラムとなりました。このプログラムは、製品に「アップサイクル認証」のロゴを付帯することで小売業者や消費者へ「アップサイクル食品」の認知を促し、フードロス削減の機会を提供することを目的としています。現在、認証を受けた製品は200以上となり、フードロスを2030年までに年間100億パウンド(約45トン)削減することを目標としています。
■スタートアップ企業
▻廃棄マッシュルーム茎から天然防腐剤:Chinova Bioworks(カナダ)
Chinova Bioworks は、通常なら廃棄されるマッシュルームの茎をアップサイクルし、抽出された成分から天然防腐剤「Chiber™」を開発しています。開発にあたりマッシュルーム生産者と提携し、食品廃棄を減らすとともに、開発された天然防腐剤により製品の品質、鮮度、貯蔵寿命を改善することでフードロス削減へも貢献できる点が特徴です。また、ビーガン、コーシャ、ハラールにも対応し、クリーンラベルを目指す食品企業も注目しています。同社は2022年6月にシリーズAラウンドで$6M(約8億円)の資金調達を実施し、7月には「Chiber™」がGRAS(一般的に安全とみなされる)申請に対してFDAから「No Question Letter」を受け取り、安全性に関して問題なしと承認されました。7月13日に発表されたNutraIngredients-USA Awardでは「スタートアップ賞」を受賞しています。8月初旬には「Mycobrio™」と呼ばれるマッシュルーム由来の天然清澄剤の発売も発表しています。
▻精密発酵で廃糖水をアップサイクル:Hyfé Foods(米国)
Hyfé Foods社は、食品や飲料製品の製造過程で発生する廃糖水を利用して、低炭水化物、高たんぱく質でグルテンフリーのミセリウム(菌糸体)粉末を生産しています。食品・飲料、醸造企業は製品の製造過程で発生する、糖質やたんぱく質、搾り粕を多く含んだ水を廃棄していますが、これはそのまま廃棄すればただの廃棄物となるだけでなく、大量のメタンガスの発生源となります。同社はこのことに着目し、精密発酵の技術と廃糖水を利用して、菌糸体由来の小麦粉代替品の生産に乗り出しました。2022年5月にはプレシードラウンドで$2M(約2.7億円)の資金調達を実施しました。同社の共同創業者であるMichelle Ruiz氏は、「太古の時代から存在している菌糸体を利用することは、素晴らしいストーリーとなる。最終的には食品会社やレストランなどへの販売を目的としており、まずは試験規模での製造を始められるよう、早急に進めている」と意欲を示しています。
▻「コーヒー界のテスラ」:Atomo Coffee(米国)
Atomo Coffee社は、「コーヒー豆を使用しないコーヒー」の開発を手掛けるスタートアップ企業です。創業者の1人、フードサイエンティストのJarret Stopforth氏が、気候変動の影響により2050年にアラビカ種の栽培地が半減するという予測、「2050年コーヒー問題」について知ったことをきっかけに開発が始まりました。タンポポコーヒーやチコリコーヒーなど、コーヒー豆以外を使用した代替コーヒーは以前からありましたが、この企業が開発したのは、「分子レベルでコーヒーとまったく同じ性質を持つ」とされる製品です。リバースエンジニアリングでコーヒーの分子を解析し、通常なら廃棄されるナツメヤシ種子やチコリ根、ブドウなどの植物をアップサイクルし、それらの成分からコーヒーの分子配列を復元しています。また、通常のコーヒーと比べて、製品の製造に必要な水の使用量が94% 削減、二酸化炭素の排出量は 93% 削減されることや、重いコーヒー チェリーを世界中に輸送する必要がないことなど、サステナブルな点も強く打ち出しており、Stopforth氏は自社を「コーヒー界のテスラだと考えている」と語っています。
シアトルを拠点とする同社がワシントン大学で行ったブラインドテイスティングでは、Starbucks CoffeeとAtomo Coffeeが比較試飲され、70%がAtomo Coffeeを選んだと報告しています。同社はシリーズAラウンドで$40M(約54憶円)の資金調達を実施しており、 2022年後半には小売店での販売を予定しています。
▻「分子飲料プリンター」:Cana Technology(米国)
アップサイクル関連ではないのですが、Atomo Coffee社同様、飲料成分の分子に着目したスタートアップのCana Technology社も興味深いのでご紹介したいと思います。同社は、ジュース、コーヒー、カクテル、ワインなど、あらゆる飲料の構成がほぼ水で、味やニオイを決める成分は5%以下しかないことに着目しました。そしてその5%を分析、解明、成分を濃縮し、あらゆる飲み物が作成可能な「分子飲料プリンター」とも呼べるデバイスを開発、ドリンクサーバー「Cana One」を発表しました。
このドリンクサーバーは、高ビタミンドリンク、低アルコールのミモザ、低糖のアイスティーなど、自分の好きなように飲料をカスタマイズできるといい、世界の誰かが考案したドリンクの共有も可能なことから、「飲料体験のNetflix」と表現しているメディアもあります。また、アメリカの一般家庭で使用すればプラスチックやガラス瓶など、1か月あたり100容器以上を節約、世界の飲料製造において排出される二酸化炭素を80%以上削減できるとしています。最初の1万ユニットは$499、その後は$799での提供予定で、発送は2023年初頭を予定しています。同社の技術は、香水や化粧品など、他の多くの製品にも応用できる可能性があるため、今後どのような発展を見せるのかも楽しみなところです。
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食品残渣を家畜飼料として利用するものから、分子解析により「分子コーヒー」として生まれ変わらせるものまで、アップサイクルの可能性の幅は急速な技術革新により大きく広がっています。「人に想像できるものは必ず実現可能である」という言葉をフランスのSF小説家ジュール・ヴェルヌが残していますが、1つのドリンクサーバーから自分の好きなドリンクを何でも作れるという夢のようなデバイスがすでに現実に存在していることを考えると、その言葉にも納得がいきます。フードテック官民協議会は今年の3月、フードテックが進歩した未来を想定した4篇のSF小説を農林水産省HPに掲載しましたが、どのお話も「こんな未来であっても全く不思議ではない」と感じさせ、現実味のある面白い作品でした。これから先、どのような技術の革新、発展があり、課題の解決へどのような役割を果たすのか、私たちの生活や意識はどのように変化してゆくのか、様々なテック分野に引き続き注目していきたいと思います。
(株)グローバルニュートリショングループ 寺門 夕里
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寺門 夕里
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