こんにちは、GNG武田です。
米国トランプ関税に関する話題は尽きず、日々、ニュースで取り上げられています。
通商拡大法(Trade Expansion Act)232条は、特定製品の輸入が米国の国家安全保障に脅威を及ぼすと商務長官が判断した場合に、追加関税などの措置を発動する権限を大統領に認めています。トランプ政権は4月3日、「米国第一の通商政策」に関する報告書の要約を公開し、その中で半導体と医薬品について第232条調査の開始を検討するとしています。
商務長官は、大統領令が発表された日から270日以内に調査を完了し、米国の国家安全保障に脅威を及ぼすか否かの判断や、追加関税などの措置の提言を含めた報告書を大統領に提出することが規定されています。
医薬品の調査対象はジェネリック医薬品および非ジェネリック医薬品の完成品、医療対策製品、有効医薬成分や主要出発物質などの重要な投入物、およびそれらの派生製品を含む医薬品、医薬成分およびその派生品となっています(調査対象の関税分類番号(HTSコード)は示されていません)。
調査の結果、医薬品の輸入によって、米国の国家安全保障が損なわれる可能性があると判断されれば、医薬品など前述した広範な産品を対象に関税引き上げなどの措置が講じられる可能性があります。
この動きを受けて、複数の業界団体が対象からダイエタリーサプリメントとその成分を除外するよう求める意見書を提出しました。
米国ハーブ製品協会(AHPA)が提出したコメントでは、「ビタミンやアミノ酸など、附属書IIに記載されている成分が、医薬品、動物飼料、従来の食品、パーソナルケア製品といった用途に加え、多くの栄養補助食品の配合において重要な役割を果たしている」ことを指摘しました。
AHPAは、これらの商品に対する第232条に基づく規制の推奨には反対し、代わりに「国内生産に対する連邦政府による直接的な支援など、多様なサプライチェーンのための代替的な積極的インセンティブの検討」を推奨しています。
AHPAは、広範囲に及ぶ国レベルの関税には基本的に反対の立場を示し、ダイエタリーサプリメントやハーブ製品の業界に影響を与えるこれらの制度の緩和と撤廃を引き続き訴えていく、と述べています。
Council for Responsible Nutrition(CRN)は、連邦当局に対し、「栄養補助食品は医薬品ではありません。提出書類では、サプリメントとその成分は医薬品と一部HTSコードを共有しているものの、その用途は大きく異なり、独自の市場で流通していることが示されています。CRNは、米国民の健康、雇用、そして経済を支えるという米国栄養補助食品業界の役割を守るよう、国務省に謹んで要請します。 …CRNは、国務省に対し、医薬品と栄養補助食品の違いを認識し、この第232条に基づく調査から栄養補助食品とその成分を明確に除外するよう勧告します 。」と指摘しました。
CRNの指摘は以下の通りです。
●ダイエタリーサプリメント業界は616,000 人以上のアメリカ人の雇用を支えています。
●この産業は年間約1580億ドルの総経済生産高を生み出しています。
● この業界は連邦政府、州政府、地方自治体に多大な税収をもたらしています。
● アメリカ人の成人の約 75% が健康とウェルネスをサポートするためにサプリメントを使用しています。
●サプリメントは米国の医療制度のコスト削減に貢献します。CRNの「サプリメントによる節約」分析によると、骨の健康のためのカルシウムやビタミンD、消化器系の健康維持のためのプロバイオティクスなどの摂取は、医療費のかかる健康状態を予防し、数十億ドル規模の医療費削減につながる可能性があります。
さらにCRNは、米国で消費される完成品のダイエタリーサプリメントの大部分は、国内生産の実務上の制約により、ビタミン、ミネラル、植物性成分、アミノ酸などの成分が世界各地から調達されているにもかかわらず、国内で製造、包装、ラベル表示されていると指摘しました。
CRNは、グローバルサプライチェーンの実態を考慮し、米国で強力な製造能力を持つ成分と海外からの調達に依存する多くの成分を区別する、きめ細やかな貿易政策アプローチを国務省に採用するよう促しました。
CRNは、毎年、消費者調査を実施するとともに定期的に、ダイエタリーサプリメントの経済効果(医療費削減、雇用創出)をシュミレーションしています。
これらの調査結果により、説得力のある意見を提出しています。
そして、AHPAは、「関税ではなく、積極的なインセンティブこそが、国内で大規模な製造を行うための最善、且つ唯一の道である」とも述べています。
米国ダイエタリーサプリメント業界は、一枚岩となって規制当局と戦う姿勢を見せています。
ビタミン、ミネラル、オメガ3脂肪酸以外のHTSコードがない、附属書IIに記載されていない成分については、サプライチェーンが見直される可能性も高そうです。
コモディティ原料にとっては逆風となりますが、差別化できているプレミアム原料にとっては、チャンスとなるかも知れません。
原料の差別化、プレミアム化において避けて通れないのが原料のブランディングです。
明後日開催の「米国ダイエタリーサプリメント・機能性食品市場への原料展開に向けたブランディング戦略セミナー」は、とてもタイムリーな開催になりました。
武田 猛
この記事について
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この記事では、その会員向けニューズレターの一部を抜粋してご紹介させていただきます。
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■GNGグローバルニュース 2025年5月27日号 トピックス
Market News
●美容産業における「長寿」の意味
●ドイツがオーストラリアを抑え中国向け保健食品輸出国の第2位に躍り出る
●食品・飲料産業を押し上げる6つの食事法
●高たんぱく質商品の需要が伸び強いトレンドに
●腸活商品は人気だが腸の健康に関する消費者の認識は低い
●中国からの保健食品輸入国で米国がトップに
Products & technology News
●食品科学におけるUPFとNOVA分類の使用は禁止すべき
Science News
●腸・皮膚軸研究がスキンケアのイノベーションを促進
●マグロ由来オイル含有機能性飲料が女性の細胞老化を遅らせる可能性
●腸内細菌叢組成は居住する場所で異なる可能性
Regulatory News
●UPF論争に対応する措置2つが明らかに
●台湾FDA、健康食品の骨の健康に関するヘルスクレームを改訂
●GLP-1サプリメントのラベル表示をめぐりLemme社が訴訟に直面
[今号のハイライト]中国からの保健食品輸入国で米国がトップに、ほか|GNGグローバルニュース2025年5月27日号
[2025/5/5][nutraingredients-asia.com]
中国の医薬品保健品輸出入商工会議所(CCCMHPIE)が発表した新しいデータによると、2023年~2024年の中国からの保健食品輸入国トップ3は米国、香港、マレーシアとなり、米国は香港から首位の座を奪い取った。
これは、世界的な関税措置調整への懸念で、企業が買いだめ行動に走ったことが原因だと推察されている。オーストラリアは輸入額が前年比77.3%増の1億6,300万ドルで第5位を示したが、中国にとっては注目すべき市場で、上位10位のうち中国からの輸出額増加を報告したのは、オーストラリアと米国だけだった。
一方、中国から東南アジアへの輸出額は11.2%減の9億5,400万ドルとなった。東南アジアでは、マレーシア、タイ、インドネシアがトップ3となっている。香港は地理的利点から、中国の保健食品を世界に輸出する重要な架け橋と言われているが、輸出額は15.1%減少し、6億1,800万ドルだった。中国の保健食品輸出総額は前年比6.3%増の42億8,000万ドル、輸入額は15.1%増の77億5,000万ドルとなり、両者の差が拡大していることから、CCCMHPIEは保健食品産業における変革が必要だと話している。海外からの保健食品輸入の増大は、消費者の購買力の増大と品質の高い商品に対する需要を反映し、その一方で、中国の保健食品に対する世界の需要は比較的低く、成長率も停滞気味である。CCCMHPIEは、安全、効果的で、科学的裏付けを持ち、便利な商品を求める消費者を満足させるため、産業はイノベーションに精力を傾けるべきとしている。また、越境EC(CBEC)を活用し、中国商品の存在感を高めること、政策立案者、産業、研究などの分野を超えた連携を強めることなどを提言した。
(会員向けニューズレター「GNGグローバルニュース2025年5月27日号」より抜粋)
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