サプリメントをHSA/FSAで購入可能にする案、コスト試算は従来想定より大幅に低いとCRN、ほか|GNGグローバルニュース2025年10月16日号





こんにちは、GNG武田です。

今号のグローバルニュースでは、
米国CRN(Council for Responsible Nutrition)のとても興味深い取り組みをニュースとして取り上げています。

ダイエタリーサプリメントが「医療費」で買えるようになるかもしれない?

米国ではいま、ダイエタリーサプリメントを医療費として認めるかどうかという議論が注目を集めています。
その中心にあるのが、現在米国議会で審議されている「The Dietary Supplement Access Act(ダイエタリーサプリメント・アクセス法)」です。

この法案は、HSA(健康貯蓄口座)やFSA(医療費補助口座)などの税制優遇制度を通じて、サプリメント購入費を医療費として支払えるようにすることを目的としています。これは、これまで医療費控除の対象外だったダイエタリーサプリメントを、健康維持や疾病予防のための「正当な医療支出」として認める内容です。

本法案は、2023年に上院議員マイク・リー(Mike Lee, 共和党・ユタ州)および下院議員ブレイク・ムーア(Blake Moore, 共和党・ユタ州)らによって提出されました。超党派の議員が共同提案者として名を連ねており、米国議会の正式な立法プロセスのもとで審議が進められています。

米国ダイエタリーサプリメント業界団体であるCRN(Council for Responsible Nutrition)は、この法案を積極的に支持している主要団体の一つです。CRNは声明の中で「HSAおよびFSA資金をサプリメント購入に使用できるようにすることは、国民の健康投資を促進する合理的な政策である」と表明しており、経済分析の委託(John Dunham & Associatesによる財政影響レポート)や議員への働きかけなどを通じて、法案成立を後押ししています。

2025年10月2日、CRNはこの委託分析レポートを正式に発表し、同日付で声明を公表しました。その内容は、業界誌 SupplySide SJ に掲載された記事「Opening HSAs to supplements much cheaper than estimated, CRN says(サプリメントへのHSA開放は、従来試算よりはるかに低コストで実現可能)」
でも報じられています(今号で取り上げています)。

記事によると、CRNのスティーブ・ミスター会長兼CEOは次のように述べています。

“This analysis confirms what we have long believed — expanding access to dietary supplements through HSA and FSA accounts is a reasonable, affordable, and beneficial policy for public health.”
「この分析は、私たちが長年主張してきたことを裏付けるものです。HSAやFSAを通じてサプリメントへのアクセスを拡大することは、合理的で、手頃で、公衆衛生にも有益な政策です。」

この声明は、サプリメントを医療支出として認める政策の実現性を訴えるものであり、同法案の根拠を補強する意図があります。CRNはこれまでも、ダイエタリーサプリメントが社会や経済に与える影響を定量的に示すレポートを継続的に社会に向けて発信してきました。

例えば、ダイエタリーサプリメントの利用による医療費削減効果(疾病予防による国民医療支出の軽減)や、ダイエタリーサプリメント産業がもたらす経済的波及効果(雇用、賃金、税収への寄与)など、“ダイエタリーサプリメントは公衆衛生だけでなく経済にも貢献する”というエビデンスを社会に提示しています。

今回のダイエタリーサプリメント・アクセス法に関する分析も、そうした「社会的価値の可視化」というCRNの長年の取り組みの延長線上にあります。今回発表されたレポートでは、現行の税法(内国歳入法第213条)を改正し、医療関連支出の定義に「健康維持または疾病予防を目的としたダイエタリーサプリメント」を追加することが提案されています。これにより、HSAやFSA、さらには雇用主が負担する医療費口座(HRA)からも、ビタミン、ミネラル、プロバイオティクス、オメガ3脂肪酸などのサプリメントを購入できるようになります。

法案の背景には、米国での医療費高騰と慢性疾患の増加があります。国民医療費はGDPの約17〜18%に達しており、政府は「治療から予防へ」という方針転換を進めています。すでに成人の約75%が何らかのサプリメントを使用しており、健康維持や疾病予防の重要なツールとして社会的に定着しています。
それにもかかわらず、制度上は「医療費」として認められないという矛盾が続いており、これを是正しようとするのが本法案の狙いです。レポートでは、財政面での影響について経済調査会社John Dunham & Associatesに委託して試算を行っています。

その結果、もしこの法案が成立した場合でも、10年間での歳入減は約122億ドル(約1.9兆円)にとどまると推定されています。この数字は、議会税務委員会(JCT)が以前に試算した417億ドルと比べて大幅に小さく、政府財政への負担は限定的であると考えられています。
(レポートによると、米国民1人当たり年間3.56ドル)

法案はまだ成立には至っていませんが、予防医療やセルフケアを重視する社会的潮流を背景に、今後の税制改正パッケージに組み込まれる可能性も指摘されています。この法案が実現すれば、ダイエタリーサプリメントは「嗜好品」から「医療支出」の一部として認められることになり、消費者にとっては実質的なコスト低減、企業にとっては信頼性向上と市場拡大の両方が期待されます。

ダイエタリーサプリメント・アクセス法は、単に税制の問題にとどまらず、「栄養を医療の一部として扱う」という新しい発想を制度化する試みでもあります。この動きは、今後の国際的な栄養政策や健康食品制度の設計にも大きな影響を与える可能性があります。

一方、日本でも近年、「サプリメント法(仮称)」の必要性が議論され始めています。
単に規制や管理の枠組みとして議論するだけではなく、米国のように、ダイエタリーサプリメントが社会や経済に果たす役割――“社会貢献”という視点からの議論も必要だと思います。

この記事について

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■GNGグローバルニュース 2025年10月16日号 トピックス

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Regulatory News
●サプリメントをHSA/FSAで購入可能にする案、コスト試算は従来想定より大幅に低いとCRN

[今号のハイライト]サプリメントをHSA/FSAで購入可能にする案、コスト試算は従来想定より大幅に低いとCRN|GNGグローバルニュース2025年10月16日号

 アメリカの業界団体、Council for Responsible Nutrition(CRN)は、医療貯蓄口座(HSA:Health Savings Account)や医療費支出口座(FSA:Flexible Spending Account)をサプリメント購入に利用可能とする政策の財政影響を再分析したところ、従来の見積もりよりも約75%低いコストで実現可能との結果を発表した。現在、これらのアカウントは一般用医薬品(OTC)などには使えるがサプリメントには適用されていない。
CRNが委託した John Dunham & Associates の試算によれば、2024年から2034年(11年相当)での費用影響は、新たな見積もりで約122億ドルとされ、従来見積もりの417億ドル前後から大きく下方修正された。このうち98億ドルは直接税収減として見積もられており、残余は「オフ・バジェット効果(社会保障信託、債務利子負担など間接的コスト)」と位置付けられている。
また、利用率に関する前提も見直されており、実態としてはHSA利用者の約27%、FSA利用者の約36%しかOTC医薬品購入にこれらのアカウントを使っていないという実データを基に、過大な政策導入ペースを想定した従来推計を修正したという。
CRN側は、この試算を裏付けに、「サプリメントをHSA/FSA対応にする拡張は、政策的にも合理的で、消費者利得をもたらし得る」と主張している。


出典
SupplySide Supplement Journal(2025年10月2日)
https://www.nutraingredients-asia.com/Article/2025/09/30/fda-declares-nmn-lawful-in-dietary-supplements/?utm_source=newsletter_dhttps://www.supplysidesj.com/supplement-regulations/opening-hsas-to-supplements-much-cheaper-than-estimated-crn-says?utm_campaign=SupplySide_SJ_News_NL_20251007&utm_emailname=SupplySide_SJ_News_NL_20251007&utm_medium=email&utm_source=eloqua&utm_MDMContactID=b50c5a7e-81cd-4425-8e0f-8eb2e4a00736&utm_campaigntype=Newsletter&eM=2df495b03823e014ae1cf0fb19b3755948b0b411b82cbc874989dfd640d74163&eventSeriesCode=ES_NATPRINSDRDGTL&eventEditionCode=HLN00INS&sessionCode=S_INSNWLTRWE&sp_eh=2df495b03823e014ae1cf0fb19b3755948b0b411b82cbc874989dfd640d74163aily&utm_medium=email&utm_campaign=01-Oct-2025&cid=DM1236393&bid=805410634


 (会員向けニューズレター「GNGグローバルニュース2025年10月16日号」より抜粋)

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