こんにちは、GNG武田です。
今年も残すところ、あとわずかとなりました。来年に向けて、いくつかのテーマが積み残されていると感じますが、その中でも、サプリメントをどのように位置づけ、どう整理していくのかという議論は、まだ入口に立ったばかりです。
現在、日本でのサプリメントを巡る議論を見ていて、現場にいる立場として、少し引っかかる感覚を持っています。それは、「サプリメントをどう規制するか」という問いから、議論が始まっている点です。
安全性の確保や品質保証が重要であることは言うまでもありませんし、規制が不要だと言いたいわけでもありません。ただ、その問いが最初に置かれてしまうことで、話の方向性が最初から限定されてしまっているようにも感じます。
サプリメントは、医薬品でもなく、かといって単なる食品でもありません。多くの場合、生活者が日常の中で体調や生活習慣を考えながら、自分で必要性を判断し、情報を確認しながら選択・活用している存在です。そのため、甚大な健康被害が発生した以上、再発防止に向けた「規制」の議論が先行するのは行政として当然の責務です。
しかし、緊急事態への対応(各論)に終始するあまり、サプリメントを社会の中でどう活かすかという「設計思想(総論)」が置き去りになれば、将来的な産業の健全な発展を阻害しかねません。また、サプリメントは、医薬品のように医師や薬剤師の指導の下で使用されるものではありません。そのため、消費者保護の観点から「規制」起点で議論が始まること自体は、一定の合理性があると考えられます。ただし、その視点が前面に出すぎると、サプリメントをどのような存在として社会の中に位置づけるのかという「あり方」や設計思想の議論が、十分に行われにくくなる懸念もあります。だからこそ、規制や定義に入る前に、まず基本的な考え方を共有することが重要だと感じています。
日本で、紅麹事件を受けた機能性表示食品制度の見直しは春先から急ピッチで進められてきましたが、一歩踏み込んで「サプリメントそのものの位置づけ」を巡る本質的な議論が検討会等で改めて動き出したのは、今年10月下旬のことです。こうした経緯から、議論がまず食品衛生法の枠組みの中で始まっている、という制度上の事情があります。
少し視野を広げて海外の制度を見てみると、「医薬品でもなく、食品でもない」この領域に対して、各国が非常に慎重に制度設計を行ってきたことが分かります。EUでは、フードサプリメント制度の下で使用可能な成分や含有量を定め、安全性を起点に制度を構築しています。ASEAN諸国においても、ヘルスサプリメントというカテゴリーを設け、医薬品とは異なる役割を与えつつ、成分や用量を管理する枠組みが採られています。そして、米国では、ダイエタリーサプリメントという独立したカテゴリーを設け、1994年以前の食経験を前提としつつ、新規成分についてはNDI制度による事前評価を求める仕組みが整えられています。
制度の表現や運用方法には違いがあるものの、使用可能な成分を一定の考え方の下で整理し、安全性の前提を制度として共有するという点では、いずれも実質的にポジティブリスト的な思想に基づいていると言えます。
添加物や残留農薬などの制度を除き、「サプリメントに使用される一般食品成分」についての包括的なポジティブリストが整備されていません。そのため、何を前提に安全性を判断するのか、どこまでを許容範囲と考えるのかといった共通理解が形成されにくく、不安が先行しやすい構造になっています。その結果として、サプリメントを巡る議論も、まず「規制」から始めざるを得ない状況に置かれているのではないでしょうか。
こうして見ると、海外の制度に共通しているのは、規制の強さや定義を先に決めているというよりも、「この領域にどのような役割を担わせるのか」という考え方を起点に制度が組み立てられている点です。言い換えれば、規制や定義は、設計思想を実装するための手段として整理されています。
これに対して、日本の議論を見ていると、本来最初に共有されるべきこの設計思想が十分に言語化されないまま、定義や線引きといった各論から話が始まっているように感じられます。これは、規制を強めるか緩めるかという立場の違い以前に、議論の順番の問題ではないでしょうか。
本来、このような健康観や役割分担に関わる議論は、行政の技術論に委ねるだけでなく、政治のレベルで方向性が示されることが望ましいテーマでもあります。しかし、日本では、健康政策が長く医療・医薬品を中心に構築されてきたこともあり、医薬品でも食品でもない中間領域について、価値判断や役割整理を行う枠組みが十分に用意されてこなかったように思われます。その結果、サプリメントのような領域についても、どうしても行政主導の議論になりやすい側面があるのではないでしょうか。
また、議論の中で、トクホや機能性表示食品(FFC)が引き合いに出される場面も少なくありません。ただ、ここでも一度整理が必要だと感じています。特にFFCは、カテゴリーではなく表示制度です。表示制度を前提に、サプリメントというカテゴリーそのものの位置づけを考えようとすると、議論の軸がずれてしまう可能性があります。トクホやFFCは、それぞれの時代背景の中で選ばれてきた制度であり、重要な参照点ではありますが、そのまま将来の設計図になるとは限りません。
さらに、生活者の姿も大きく変わっています。SNSや動画、海外情報、専門家の発信を通じて、能動的に情報を収集し、自分なりに判断する生活者は確実に増えています。New Nutrition Business(NNB)が指摘する「もはや平均的な消費者は存在しない」という言葉は、まさに現場感覚に近いものだと感じます。価値観や健康観が細分化した中で、単一の消費者像を前提に制度を設計すること自体が難しくなっています。
過去を振り返りますと、2013年末から始まった機能性表示食品制度の検討会は、制度を一から設計していく過程が見えて、とてもワクワクしながら聴講していました。特に、検討会の冒頭で示された「基本的な考え方」やビジョンには強く共感したことを覚えています。私は現在でも、機能性表示食品制度を解説する際には、必ず最初にその考え方を紹介するようにしています。
ところが、今回のサプリメントを巡る議論には、同じような高揚感をまだ感じられていません。その理由は、規制や定義の話に入る前に、制度としての設計思想やビジョンが十分に共有されていないからではないかと感じています。
こうした流れを考えると、サプリメントを巡る議論は、国内制度の延長線上だけで完結させるのではなく、将来的な国際的ハーモナイゼーションも視野に入れて進める必要があるのではないでしょうか。現在、Codexを舞台に、サプリメントやヘルスサプリメントの定義や位置づけを巡る議論が国際的に進みつつあります。日本の議論も、いずれはこうした国際的な枠組みと向き合うことになります。
現在、Codexの場では、インドを中心に、サプリメントやヘルスサプリメントの位置づけについて、定義を固める前段階として、国際的に議論すべきではないかという問題提起が行われています。具体的な提案内容はまだ明らかになっていませんが、設計思想から議論を始めようとしている点は注目に値します。
だからこそ今は、「規制をどうするか」「どこで線を引くか」を急ぐよりも、「このカテゴリーにどのような役割を期待するのか」「健康管理の中でどう位置づけるのか」といった設計思想を、関係者で共有することが大切なのではないかと感じています。
明確な答えを出す段階ではないからこそ、まずは問題提起をし、海外の考え方を参考にしながら、「どう考えるべきか」を一緒に整理していく。そのための議論が、ようやくスタートした段階だと思います。
今年最後の配信として、そんな視点を共有させていただきました。
来年も引き続き、国内外の動きを踏まえながら、このテーマを皆さんと一緒に考えていければと思います。
どうぞ、よいお年をお迎えください。
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