米国発「MAHA(Make America Healthy Again)」が示す新潮流― 日本のウェルネスフード業界にとってのチャンスと課題 ―|ウェルネスフード・ワールド第122回

こんにちは。
グローバルニュートリショングループです。

今号は、アメリカでいま最も注目を集めている健康政策「MAHA(Make America Healthy Again)」について、その背景と方向性、そして日本のウェルネスフード業界にとっての示唆を整理します。

■ MAHAとは何か
MAHAは、2025年2月にトランプ政権が大統領令によって設立した「MAHA委員会(Make America Healthy Again Commission)」による新しい国家的健康政策の方向性です。
目的は、肥満・糖尿病・アレルギー・ADHDなど、子どもを中心とした慢性疾患の増加を「根本原因から」減らすことにあります。

主なテーマには次のようなものが含まれています。

• 超加工食品(Ultra-Processed Foods, UPF)の見直しと定義化
• 食品添加物や環境化学物質の規制強化
• 栄養教育・食品ラベルの透明性向上
• SNAP(低所得者向け食料補助制度)など公的栄養プログラムの改革
• 科学的根拠・データ公開・利益相反管理の徹底

2025年9月には、「Make Our Children Healthy Again Strategy」と題する包括的な政策文書が発表され、120を超える具体的な提案が盛り込まれました。
ただし、現時点では法制化や予算化は進行中であり、方向性を示す国家的ビジョンと位置づけるのが適切です。


■ サプリメントへの新たな視点 ― NIHの研究対象化
MAHA戦略文書の中で注目すべきは、NIH(米国国立衛生研究所)の研究項目に、
“potential health benefits of select high-quality supplements(高品質サプリメントの潜在的な健康上の利点)”というテーマが含まれている点です。

これはサプリメントを政策的に推奨するものではありませんが、
科学的検証の対象として明確に位置づけ、研究支援を行う方針を示したものです。
言い換えれば、MAHAはサプリメントを「問題視の対象」から「科学的に理解しようとする対象」へと転換しようとしています。
高品質でエビデンスを備えた製品を、健康維持・疾病予防の一助として公的研究の射程に入れたという点で、業界にとって重要な政策転換と言えます。


■ 「表示法」と「国家戦略」の決定的な違い
この点を、日本の「機能性表示食品制度(FFC)」と比較すると、その性質の違いが明確になります。

• 日本のFFC制度は、「表示法」の枠内であり、科学的根拠を企業責任で届出すれば、機能性表示が可能になるという仕組みです。
• 一方、MAHAは、「国民の健康政策」の中で食品やサプリメントを位置づけようとする、国家的なアプローチです。

つまり、MAHAは「民間の表示の自由」ではなく、「国が公衆衛生の一環として栄養・食品を活用する」という発想に立っています。

この構造的な違いは、日本のウェルネスフード業界にとって大きな学びのポイントです。
いま日本に求められているのは、単に「機能を表示する」ことではなく、“科学的根拠を社会実装し、国民の健康に貢献する産業”へと進化させることです。


■ 「超加工食品」規制の波及とクリーンラベル志向の高まり
MAHAでは、食品政策の中核として「Ultra-Processed Foods(超加工食品)」の定義化と規制強化を掲げています。
これは食品だけでなく、添加物・人工甘味料・合成香料などの使用実態にも踏み込む包括的な動きです。
サプリメントは一般食品とは異なりますが、製剤工程や添加物の種類によっては、「加工食品」のカテゴリーとして議論に含まれる可能性があります。
したがって、今後は以下のような流れが強まると予想されます。

• 「無添加」「クリーンラベル」対応製品への移行
• 原材料の透明性・トレーサビリティ要求の強化
• 人工甘味料や着色料の使用見直し

MAHAが重視する「自然志向」や「加工度の低い食品」という価値観は、日本企業の得意領域とは必ずしも一致しません。

しかし、日本企業は「安全性」「製造精度」「一貫した品質管理」において、世界的に高い評価を得ています。
こうした強みを生かしつつ、添加物の使い方や製剤設計の透明性をさらに高めることが、MAHA以降の市場で信頼を獲得する鍵となるでしょう。


■ RFK Jr.の影響:自然志向と代替医療トレンドの拡大
MAHA委員会の議長である ロバート・F・ケネディ・ジュニア(RFK Jr.) 氏は、ワクチン政策や製薬業界への批判で知られ、
自然治癒・デトックス・代替医療といった価値観を重視する人物です。

彼のリーダーシップの下で、MAHAは単なる制度改革ではなく、「自然志向のウェルネスムーブメント」としての色彩を強めています。

その結果、米国市場では次のようなトレンドが広がると予測されます。

• 植物性・発酵素材など、自然由来成分の注目拡大
• 「医薬的」ではなく「ライフスタイル的」健康維持商品の需要増加
• “Detox”“Cleanse”“Balance”といった概念の再評価

この流れは、日本が得意とする発酵・和漢・機能性植物素材と高い親和性を持ちます。

科学的裏付けと自然性を両立した日本ブランドは、米国市場で最も信頼されるポジションを築ける可能性があります。


■ 日本企業が取るべき戦略的アクション
1. エビデンス体制の整備と発信
 臨床研究や成分分析を戦略的に体系化し、国際的な査読誌や学会で継続的に発信することで、製品の信頼性を「世界基準」で確立していきましょう。
 「科学的エビデンスを社会実装する企業」という姿勢が評価されます。
2. ラベル・広告の透明化
 誇張を避け、根拠を裏付けた表現を行うことが重要です。
 クリーンラベル対応を早期に進め、国際基準を意識した表示設計を行いましょう。
3. “Public Health Nutrition”の視点を導入
 サプリメントを「個人の選択」ではなく、「社会の健康課題を解決する栄養ツール」として提案する姿勢が求められます。
4. RFK Jr.的トレンドとの親和性を活かす
 「自然」「発酵」「和漢」など日本固有の強みを、“科学的ナチュラル”として再定義し、米国市場での差別化を図りましょう。
5. リスク分散と多地域展開
 米国政策動向に注目しつつ、アジア・欧州市場でも同様の潮流(透明性・無添加・機能性重視)を見据え、同時展開を準備しましょう。


■ まとめ
MAHAはまだ実行段階にはありませんが、その掲げる理念――「科学と自然の融合による健康社会」――は、今後のウェルネスフード産業の方向性を
象徴しています。
日本の制度が「表示」にとどまる中で、米国は「食品・栄養を公衆衛生の一部として活用する」次のステージに進もうとしています。
日本企業にとって今こそ、“エビデンス×社会貢献”を融合したブランド戦略を構築する好機です。
単なる「機能性表示」ではなく、「国の健康課題に寄与する科学的ソリューション」を提示できる企業こそ、次の時代の主役になるでしょう。
まさに今、「エビデンスの確実性」が競争力を左右する時代に入っています。
________________________________________
参考情報(主な出典)
• U.S. Department of Health and Human Services (HHS): MAHA Official Page
• Holland & Knight: “MAHA Commission Report Details Federal Response”
• Covington & Burling: “The Make Our Children Healthy Again Strategy Report”
• NIH: “Potential Health Benefits of Select High-Quality Supplements” (MAHA Report, 2025)
• Multistate.us: “States Advance MAHA Policies Ahead of Federal Action”
• KFF Health News: “Analysis on MAHA’s Public Health Agenda”
• American Action Forum: “MAHA Commission Strategy Report Analysis”

<GNG研究会について>

GNG研究会では、過去十数年にわたるニューズレターのバックナンバーを会員ページにてすべて公開しています。

そして、例えば「免疫」、「プロテイン」、「乳酸菌」、「腸内細菌叢」など特定のキーワードで過去の記事を見出し検索できるので、トレンド把握に役立ちます。
GNGでは、国内および「海外のいま」をお届けできるよう全力で取り組んでおります。

皆様のウェルネスフードビジネスに少しでもお役に立てましたら幸いです。

━━━━━━━━━━

無料メルマガに登録いただけると、更新をメールでお知らせします。

無料メルマガ「ウェルネスフード・ワールド」のご登録はこちら

┗━━━━━━━━━━━━━━━┛

最近の記事

CONTACT

  • TEL:03-5944-9813

お問合せフォーム

PAGE TOP