免疫サポート市場は、いかにして成立したのか― 医薬品と食品の役割分担を考える|ウェルネスフード・ワールド第126回

こんにちは、GNG武田です。

近年、日本では「免疫サポート」を訴求する食品・飲料が急速に存在感を高めています。
ヨーグルト、飲料、サプリメントなど、日常的に取り入れやすい形での提案が増え、一見すると風邪薬などのOTC医薬品から、
食品へ市場がシフトしたようにも見えます。
しかし、ここで少し立ち止まって整理してみると、今起きている変化は、単純な市場の代替ではないように思われます。

※本号は少し長めですが、
・「免疫サポート市場で何が起きたのか」
・「それがサプリメントをどう捉え直すヒントになるのか」
を構造的に整理しています。
気になるところだけ拾い読みしていただいても大丈夫です。

■ 医薬品市場が「奪われた」のではない

免疫サポート食品・飲料の拡大を受けて、「その分、風邪薬などのOTC医薬品市場が縮小したのではないか」という見方が語られることがあります。
しかし、公開されている市場データを見る限り、日本のOTC風邪薬(総合感冒薬)市場は、近年もおおむね600億円前後の規模で推移しており、免疫サポート食品の拡大と引き換えに大きく失われたとは言い難い状況です。
感染症の流行期には一時的な変動は見られたものの、中長期で見れば、一定規模を維持しながら安定的に存在している市場と捉えることができます。

この点を理解するためには、「免疫」という言葉が指してきた中身の変化を整理する必要があります。
従来、日本の健康食品分野における免疫訴求は、主としてがん予防など、長期的かつ重篤な健康リスクを意識した文脈で語られてきました。一方で、R-1の登場以降、免疫はインフルエンザや風邪といった感染症予防という、より日常的で身近なテーマと結びつくようになり、さらに機能性表示食品(FFC)では「免疫サポート」という形で、日常の状態維持を意識した文脈へと広がっています。
これらはいずれも調査上は「免疫」カテゴリーとして一括りにされることが多いものの、
生活者の行動や競合関係という観点では、本質的に異なる市場です。
特に、風邪薬との競合が生じるのは、従来のがん予防型の免疫訴求ではなく、感染症予防や免疫サポートを前面に出した領域においてです。

さらに重要なのは、OTC医薬品と免疫サポート食品の役割の違いです。
風邪薬などのOTC医薬品は、症状が現れた後に用いられる「対症療法」として位置づけられています。

一方で、免疫サポート食品・飲料は、症状が出る前の日常の中で取り入れられる存在であり、制度上「予防」と表示することはできないものの、生活者の行動としては明らかに予防的な文脈で選択されています。

その背景には、生活者の強いニーズがあります。
多くの人が「風邪をひきたくない」「風邪をひいてからでは遅い」と感じており、症状が出てから対処するよりも、そもそも体調を崩さない状態を維持したいと考えています。免疫サポート食品は、こうした意識に寄り添う形で受け入れられてきた存在だと言えるでしょう。

こうして整理すると、免疫サポート食品市場の拡大は、OTC医薬品市場を奪った結果ではなく、「症状が出た後に対処する市場」とは異なる時間軸で、生活者の新たな支出と習慣が生まれた結果と理解する方が自然です。
ここで起きているのは市場の代替ではなく、明確な市場創造であると考えられます。

■ 生まれたのは「予防」ではなく「状態を守る」市場

ここで重要なのは、免疫サポート食品が提案しているのは、必ずしも「疾病の予防」そのものではない、という点です。
生活者が求めているのは、
・忙しい時期でも体調を崩したくない
・家族や周囲に迷惑をかけたくない
・日常のリズムを崩さずに過ごしたい
といった、“日常の状態を守る”という感覚です。

これは医療の文脈で語られる「治療」や「予防」とは少し異なり、生活設計の一部としての健康管理と言えるでしょう。
免疫サポート食品市場は、この「状態を維持したい」という意識に寄り添う形で、新たに形成されてきた市場と考えられます。

■ この構造は日本特有の現象ではない

このような状況は、海外の市場構造からも確認できます。
米国の事例を見ると、免疫サポートやウェルネスフードへの関心が高い背景には、日本とは異なる医療制度の存在があります。
ご存知の通り、米国では医療費の自己負担が大きく、安易に医療機関を受診することができない事情があるため、体調を崩してから対処するよりも、日常の中で健康状態を維持することへの意識が高いと言えます。

また、日本と同様に、米国においてもOTC医薬品は基本的に対症療法を目的としたものであり、予防効果を期待するものではありません。
そのため、「症状が出てから使う医薬品」と「症状が出る前の日常行動として取り入れられる食品・サプリメント」という役割分担は、医療制度の違いがあっても共通して見られる構造です。

こうした前提を踏まえると、米国市場は単に免疫サポート食品が先行しているというよりも、医薬品と食品の役割の違いがより明確に意識されている市場と捉えることができます。
この点は、日本における免疫サポート市場やFood as Medicineの可能性と限界を考えるうえでも、示唆的な比較対象と言えます。

■ サプリメント・機能性食品をどう捉え直すか

この免疫サポート市場の事例は、今後のサプリメントや機能性食品を考える上で、重要な示唆を与えてくれます。
それは、制度や分類(医薬品か食品か)ではなく、生活者が
「どの状態を、どのタイミングで、どう管理したいのか」
という視点で市場を捉え直す必要がある、ということです。
免疫サポート食品は、「効くかどうか」だけで選ばれているのではないと思います。
「続ける意味があるか」「生活に組み込めるか」という納得感が、選択の大きな要因になっていると思います。

■ 「免疫」という言葉を、制度の中で正面から扱った意義

日本の免疫サポート市場を語るうえで、もう一つ見逃せないポイントがあります。
それは、機能性表示食品(FFC)制度の中で、「免疫」というカテゴリーが正面から扱われるようになったことです。

これまで日本では、「免疫」は非常に重要でありながら、表現や制度運用の難しさから、どこか曖昧な言葉として扱われてきました。
そのため、生活者にとっても「何を、どこまで期待してよいのか」が分かりにくい領域でもありました。
こうした状況の中で、キリンが科学的エビデンスを基に、機能性表示食品として「免疫機能」に関する表示を実現したことは、日本のウェルネスフード市場において大きな意味を持つ出来事だったと考えられます。

これは単に一企業が新しい表示を可能にした、という話ではありません。
「免疫」という概念を、
・あいまいなイメージ訴求ではなく
・制度の枠組みの中で
・エビデンスと責任を伴う形で
生活者に提示できる可能性を示した、という点に本質があります。

結果として、免疫サポート食品市場は、感覚的・情緒的な健康イメージの世界から一歩進み、「日常の状態をどう維持するか」を考える、より成熟した市場へと進む足場を得たと言えます。

キリンの取り組みは、免疫サポート市場の拡大そのもの以上に、機能性表示食品制度の活用可能性を現実のビジネスとして示した点で、高く評価されるべき事例です。

さらに付け加えるなら、キリンの取り組みが評価される理由は、国内制度への対応にとどまらない点にもあります。
同社は、欧州における 欧州食品安全機関(EFSA) のヘルスクレームに関する考え方やガイダンスを丹念に研究し、そのエッセンスを日本の機能性表示食品(FFC)制度における届出設計に応用するという、グローバルな視点での制度解釈と実装を行っていました。

これは、単に海外制度を参照したというレベルの話ではありません。
免疫というセンシティブなテーマを、
・どのような科学的枠組みで整理すれば
・生活者に過度な期待を抱かせることなく
・制度の求める「責任ある表現」と両立できるのか
を、国際的な議論の蓄積を踏まえて検討した結果と捉えることができます。
この姿勢は、免疫サポート市場が一過性のブームではなく、制度・科学・生活者理解が交差する持続的な市場として成立し得ることを示したという点で、
業界全体にとっても重要な示唆を含んでいます。

■ FFCが可能にした「市場創造」と、その限界

免疫サポート市場が「代替」ではなく「創造」であったことは、個別事例を見ても確認できます。
例えば、明治のR-1は単一ブランドで1,000億円を超える規模に成長したとされており、これはOTC風邪薬(総合感冒薬)市場全体(約600億円規模)と比較しても、同等あるいはそれ以上の存在感を持つ規模感です。
また、キリンのプラズマ乳酸菌も、飲料・サプリメント・外販原料を含めて年間230億円規模に達しており、免疫サポートを日常習慣として提案する市場が、着実に成立していることを示しています。

免疫サポート市場は、R-1などの先行事例を通じて生活者の行動が変化し、機能性表示食品(FFC)制度のもとで免疫を制度的に扱える環境が整ったことで、市場として整理されるようになってきました。
免疫というセンシティブなテーマを、医薬品的な「治療」や「数値改善」ではなく、日常の状態を支える「免疫サポート」として位置づけ、制度・科学・生活者理解を踏まえたアプローチで市場が形成されてきた点は、FFCの意義を考えるうえでも示唆的です。

一方で、血糖値や血圧といった領域では、食品・サプリメントが医薬品に近いロジックで「数値を下げる」「改善する」ことを前面に出しても、同様の市場創造には必ずしもつながっていません。
これらの領域では、生活者の中で医薬品の役割が明確であり、食品が医薬品的アプローチを取るほど、

かえって選択理由が曖昧になるケースも少なくありません。
この対比は、Food as Medicine(フードアズメディシン)という考え方の可能性と限界を示しています。

食品が医薬品の代替を目指すのではなく、医薬品とは異なる時間軸・異なる役割で生活者の状態を支えるときにこそ、
新しい市場は生まれる——免疫サポート市場は、そのことを最も分かりやすく示した例だと言えるでしょう。

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